この山寺には、毎年春になるとツバメが巣を作って、ひなを育てるのです。
その年も、山寺にツバメが巣を作りました。
和尚さんが何気なく、
「ツバメよ。毎年毎年、そこに巣を作るが、ちっとは、宿賃でも払う気にならんか?」
と、からかう様に言うと、ツバメはどこかへ飛んで行って、カボチャの種を一つ持って帰ると、和尚さんの前にポトンと落としました。
「おや? なんと、さっそく宿賃をくれたか。わはははははははは」
和尚さんは大笑いしながら、ツバメがくれたカボチャの種を大切にしまい、春を待って畑にまきました。
するとその種から芽が出て、やがて大きな大きなカボチャが一つなりました。
でも和尚さんは、ツバメの宿賃は大切にしようと言って、なかなか食べようとはしません。
そこで、しびれを切らした小僧さんは、和尚さんの留守をねらって、ついにカボチャを割ってしまいました。
ところが割れたカボチャの中から、ヘビがニョロニョロとはい出してきたので、びっくりした小僧さんはヘビとカボチャを裏の小池へ投げ捨てたのです。
小僧さんは、それでも気がおさまらないので、ツバメの巣へ向かって、
「役立たずは、出て行け!」
と、怒鳴っていると、ちょうど和尚さんが帰ってきたので、小僧さんは一部始終を話しました。
するとそこへ突然の大風が吹いてきて、空は見る見る暗くなり、雷まで鳴り始めて大嵐になりました。
このままでは山寺が壊れてしまうと心配になった和尚さんが、一心にお経をあげていると、小僧さんが飛んできて、
「裏の小池が大変です!」
と、叫びました。
見に行った和尚さんは、あまりの事に腰を抜かしそうになりました。
何と池には大きなヘビが泳ぎ回り、池の方も少しずつ大きくなっていくのです。
怖くて泣きわめく小僧さんをなだめすかした和尚さんは、再びお経をあげ始めました。
さて次の朝、嵐がやんだので池を見に出た和尚さんはびっくり。
小池はいつの間にか広々とした沼になり、ヘビの姿も見あたりませんでした。
この沼は後に蛇沼(へびぬま)と呼ばれ、田んぼをうるおす大切な用水池になったそうです。