はじめはガリガリの小さな体でしたが、いっしょうけんめいけいこをして、ズンズン大きくなりました。
「はやく大関(おおぜき→むかしは大関が一番強い位でした)になって、お母さんに喜んでもらうんだ」
つるぎ山は大関になるために、毎日きびしいけいこを続けました。
ところがある日から、つるぎ山は急に弱くなってしまいました。
自分よりも体の小さい者にも、コロコロと負かされてしまうのです。
「さっきのは、ちょっとゆだんしたからだ。もうゆだんしないぞ。さあこい!」
でもやっぱり、いくらがんばってもコロコロと負けてしまいます。
「もうだめだ。残念だが、すもうをやめよう」
そして、お世話になった親方(おやかた)に言いました。。
「わたしは、もう限界です。田舎へ帰ってお母さんのそばで働くので、ひまをください」
しかし親方は、つるぎ山をはげましました。
「調子の悪い時は、誰にでもある。もう少し、ガマンするのだ。負けてもけいこを続ければ、必ず強くなる」
けれどつるぎ山は親方の家を逃げ出して、お母さんのいる田舎へ帰ったのです。
「お母さん、すもう取りになりましたが、どうしても大関になれそうもありません。これからは田舎で働くので、お母さんのそばへおいてください」
手をついてあやまるつるぎ山に、お母さんはきびしく言いました。
「いけません! そんな意気地なしは、お母さんの子ではありません。もう一度、親方さんのところへ帰って、しっかりけいこをしてごらんなさい。大関になるまでは、二度と帰ってはいけません!」
「でも」
「はやく、親方さんのところに帰りなさい!」
「???はい」
そこまで言われれば、仕方がありません。
つるぎ山は親方のところへ、帰ることにしました。
その帰る途中に、けわしい山があります。
つるぎ山が山を登っていると、
「おーい、おーい」
と、誰かが後ろから呼びました。
それは頭の毛がボウボウとのびていて、体はやせて骨と皮ばかりの老人です。
「わたしに、何か用かね?」
「さようです。ヘヘヘへ。わたしをおいてきぼりにしないでくださいよ。今朝はうっかりして遅れましたが、わたしたちは、いつも一緒でしょう。さあ、行きましょう」
「???? いつも一緒だって? お前は一体、誰だ?」
「わたしですか。ヘヘヘへ。わたしは、貧乏神(びんぼうがみ)です。いつもあなたに、ついているのですよ」
つるぎ山はビックリして、貧乏神の顔をにらみつけました。
「わかったぞ! お前がついているから、わたしはすもうに負けるのだな。そうだろう!」
「ヘヘヘへ。その通りですが、ちょっと違います。
わたしがいるから弱くなったのではなく、あなたが弱いから、わたしがやって来たのです」
「わたしが弱いだと! なにを言う、わたしはすもう取りのつるぎ山だぞ!」
「ヘヘヘへ。あなたのどこが強いのですか? ちょっと負けが続いたからといって、親方のところから逃げ出して、お母さんに泣きつくお人が」
「なっ、なんだと!!」
つるぎ山は大声で怒鳴りましたが、しかし貧乏神の言う事も間違いではありません。
(確かに、貧乏神の言う通りだ。わたしが意気地なしだから、貧乏神がやってきたのだ。よし、元気を出そう。貧乏神なんかに、負けてたまるか!)
つるぎ山ははだかになってまわしをしめると、貧乏神に言いました。
「貧乏神! ひとつ、すもうをとろうじゃないか」
「ヘヘへへ。すもうですか? まあ、とってもいいですが、でも、わたしの方が勝ちますよ」
「そんな事はない。勝つのは、このつるぎ山だ!」
「いいえ、意気地なしのあなたでは、わたしに勝てませんよ」
「勝てないかどうか、ためしてみるがいい!」
つるぎ山は、ドシン、ドシンと、しこをふんでから、貧乏神に組み付きました。
そして全身に力を込めて、
「えいっ!」
と、貧乏神を投げ飛ばしたのです。
「おみごと! あなたはきっと、大関になれますよ」
貧乏神はそう言って、消えてしまいました。
そのとたん、つるぎ山の体に力がわいてきました。
力があふれ出て、自分でも強くなったのがわかります。
つるぎ山は元気いっぱいで、親方の家に帰りました。
そしてつるぎ山はけいこをつんで、それから三年目、ついに大関になる事が出来たのです。