くろべ四十八(しじゅうはち)が瀬とかや、数しらぬ川をわたりて、那古と云浦に出。担籠(たこ)の藤浪は、春ならずとも、初秋の哀とふべきものをと、人に尋れば、「是(これ)より五里、いそ伝ひして、むかふの山陰にいり、蜑の苫ぶきかすかなれば、蘆の一夜の宿かすものあるまじ」といひをどされて、かヾの国に入。
わせの香(か)や分入(わけいる)右は有磯海(ありそうみ)
現代語訳
黒部四十八が瀬というのだろうか、数え切れないほどの川を渡って、那古という浦に出た。
「担籠の藤浪」と詠まれる歌枕の地が近いので、春ではないが初秋の雰囲気もまたいいだろう、訪ねようということで人に道を聞く。
「ここから五里、磯伝いに進み、向こうの山陰に入ったところです。漁師の苫屋もあまり無いところだから、「葦のかりねの一夜ゆえ」と古歌にあるような、一夜の宿さえ泊めてくれる人はないでしょう」と脅かされて、加賀の国に入る。
わせの香や分入右は有磯海
(意味)北陸の豊かな早稲の香りに包まれて加賀の国に入っていくと、右側には歌枕として知られる【有磯海】が広がっている。