秋の田の かりほの庵(いほ)の 苫(とま)をあらみ わが衣手(ころもで)は 露にぬれつつ
天智天皇
【歌意】 秋の田圃のほとりの仮小屋の、その屋根を葺いた苫の編み目が粗いために、私の着物の袖が夜露に濡れていくばかりだ?
【作者】 (てんじてんのう) 626~671年 舒明天皇の皇子(中大兄皇子)。藤原鎌足らと蘇我氏を滅ぼし、大化改新を実現した。
【説明】 「かりほ」は「刈穂」と「仮庵」の掛詞。「苫」は菅(すげ)や萱(かや)で編んだ菰(こも)。この歌はもともと『万葉集』にある「秋田刈る仮庵を作り我が居れば衣手寒く露そ置きにける」(巻十?二一七六)という作者不明歌であり、これが口伝えで伝わるうち、王朝人好みの歌詞に変化し、さらに天智天皇の作とされるようになったらしい。晩秋の農作業にいそしむ静寂な田園風景を詠んだ歌。