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太閤様の御臨終(3)

时间: 2023-11-28    进入日语论坛
核心提示:「その嘉右衛門さんというのは、千万太君のお父さんかね」「なに、祖じ父いさんでさ。去年七十八で死にましたが、元気なものでし
(单词翻译:双击或拖选)

「その嘉右衛門さんというのは、千万太君のお父さんかね」

「なに、祖じ父いさんでさ。去年七十八で死にましたが、元気なものでしたね。体は小さ

かったが、肝きもったまの大きな人で、いい旦那でしたよ。島では太たい閤こうさんと

いっていて、なかなか死にそうにはなかったが、やっぱり戦いくさに負けたンがこたえた

んですかね。ポックリ往生しましたよ」

「それじゃ終戦後亡くなったんだね。それで千万太君の両親というのはどうしたんだね」

 耕助のもっとも疑問とするところはそこだった。このあいだ、千万太の死を知らせに

いったとき、座敷へ現われたのは月代、雪枝、花子という三姉妹と、早苗という娘、ほか

に五十前後の、みっともない顔をした老婆が御飯のときちょっと顔を出したが、広い屋敷

にはそれ以外、男気の感じられなかったのが不思議であった。千光寺の和尚も、

「ここに逗とう留りゆうしてもろうてもよいのだが、女ばかりの世帯だから……」

 と、そういって耕助を、自分の寺へつれてかえったのである。

「千万さんのおふくろさんは、千万さんが生まれると間もなく亡くなったそうですよ。そ

れで後のち添ぞいをもらったんですが、このひともだいぶまえに亡くなりました」

「ああ、それじゃあの三人のお嬢さんは、千万太君とは腹ちがいなんだね」

「へえ、そうですよ」

「それで、千万太君のお父さんは……?」

「与よ三さ松まつの旦那ですかい。ええ、その人はまだ生きていますよ。生きていますが

御病気でね。だれのまえへも出ねえんです」

「病気? どこが悪いんだね」

「どこってその……あまり大きな声じゃいえねえが、つまり、その……気が狂ってるんで

すね」

 耕助は思わず大きく眼をみはった。

「気が狂ってる……それでどこかへ入院してるのかい」

「いえ、入院しちゃいません。あの家にいるんですよ。なんでも座ざ敷しき牢ろうがこさ

えてあってその中に入れてあるそうですが、ええ、もう久しいもんです。かれこれ十年に

もなりますねえ。あっしなんざ、もう顔も忘れっちまったくらいですからねえ」

 それを聞いて耕助は、はじめて思い当たるところがあった。このあいだ、鬼頭家の座敷

に座っているとき、かれは一度、ただならぬ叫び声を聞いたのである。それはまるで、野

獣の咆ほう哮こうにも似た、あらあらしく、物狂おしい叫び声で、耕助もそれには少なか

らずどぎもを抜かれたものである。

「ふうむ、それでその気ちがいというのは暴れるのかい」

「いえ。ふだんはしごくおとなしいンですがね、どうかすると手に負えねえことがあるそ

うです。ところで妙なもンで、あそこに早苗さんという娘さんがいるでしょう。ありゃ気

ちがいさんの姪めいに当たるんですがね、これが一言二言声をかけると、ケロリと、おさ

まっちまうんです。それにひきかえ現在のわが子の娘たちが行くと、これがいよいよ手に

負えなくなるンだそうですから、困ったもんでさあ」

「そりゃ……しかし、妙だね」

「なに、別に妙でもなんでもありませんや。あの三人の娘というのが……このほうがか

えって妙でさあね。自分のおやじを、まるで動物園の虎とらかライオンみたいに、おも

ちゃにしては喜んでるってしろものですからね。気ちがいさんの寝てるところを、格子の

外から物もの差さしでつついたり、紙かみ礫つぶてを投げつけたり、それで三人、きゃっ

きゃっと喜んでるってえンですから、話を聞いただけでも気味が悪くなりまさあ。どうも

あの娘たちは変ですぜ」

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