返回首页

海へ飛び込んだ男(4)

时间: 2023-11-30    进入日语论坛
核心提示: そこまで考えてきたとき、耕助はまたぎょっとしたように息をのんだのである。あれは千万太のお通夜のあとだった。花子の姿の見
(单词翻译:双击或拖选)

 そこまで考えてきたとき、耕助はまたぎょっとしたように息をのんだのである。あれは

千万太のお通夜のあとだった。花子の姿の見えないことが問題になって、お勝さんと早苗

さんが、もう一度家のなかを探してみると席を立った。その直後のことである。奥のほう

からけたたましい悲鳴がきこえたのは。……あれはたしかに早苗さんの悲鳴だったが、す

ぐそのあとで、気ちがいのうなり声がきこえたので、さてはまた、気ちがいがあばれ出し

たのであろうと、早苗の悲鳴も大して問題にならなかった。しかし、いまから考えてみる

と、これは少し妙である。あの気ちがいは早苗にたいへんなついていて、どんなに猛たけ

り狂っているときでも、ひとこと早苗が声をかけると、けろりとおさまるということであ

る。早苗だって、そのことを知っているはずだから、気ちがいがあばれ出したくらいのこ

とで、あのような悲鳴をあげるはずはない。それにもかかわらず彼女は悲鳴をあげた。悲

鳴をあげたのみならず、もとの座敷へかえってきたとき、すっかり血の気を失って、円つ

ぶらな眼が、ものにおびえたように大きく拡大していた。いったい、あのとき早苗はなに

にあのように驚きおびえたのか。ひょっとすると、彼女は座敷牢の付近に、見知らぬ男の

姿を見つけたのではあるまいか。すなわちそいつが座敷牢の格子のあいだから、煙草を盗

み出すところを見たのではあるまいか。

 しかし……?

 それだとすれば彼女はなぜひとを呼ばなかったのか。なぜ、そのままそいつを逃がして

しまったのか。いやいや、そいつを逃がしてしまったのみならず、座敷へかえってきたの

ちも、ひとこともそのことを語ろうとはしなかったのは、なぜか。かえって彼女は自分の

立てた悲鳴のいわれを、気ちがいのせいであるかのように取りつくろおうしたが、それは

なんのためなのか。

 それにもうひとつ、あの靴跡の問題がある。底に蝙蝠こうもり形の傷のある靴跡は、渡

り廊下の下にただひとつ、残っていただけである。あのほかにも湿ったところや、日陰に

なった地面があるから、当然そこにも靴跡が残っていなければならないはずだのに、靴跡

はひとつしかなかった。と、いうことは、だれかがあとから靴跡を、消してしまったとい

うことを意味していないか。ただひとつ、渡り廊下の下にあるやつだけは気づかずに。

……そして、それは早苗のしわざではなかろうか。すなわち、早苗はその男を、知ってい

るのではあるまいか。とすればその男はいったい何者か。……

「警部さん、警部さん」

 耕助はそこで突然警部のほうをふりかえった。

「その男……海へとびこんだという男ですがね。そいつはいったいどういう男だかわかり

ませんか」

「それがねえ、残念なことには、なにもわかっていないんです。と、いうのは宇野でとら

えた男も、そいつについて、あまり詳しいことは知っていないんです。なんでもごくちか

ごろ、一味に加入したらしいんですね。名前は山田太郎といっていたそうだが、そんな

の、本名かどうかわかりゃしない。三十前後の屈強の若者で、ひどく日やけしているとこ

ろを見ると、たぶん、南方からちかごろ復員してきた男だろうといっているんですがね。

服装はむろん、兵隊服に、兵隊靴をはき、それからピストルに、弾丸もかなりたくさん

持っていたが、海へとびこむとき、ピストルや弾丸はぬれないように、革袋へつめて、頭

のうえへ結びつけていたというから、まあ、かなりやっかいな存在です。ところで金田一

さん、そういう男が、この島へ、上陸したという疑いがあるんですね」

「そうなんです。しかも、そいつがこんどの事件に、重大な関係をもっているにちがいな

いと思われる節があるんですよ。ところで、清水さん、そういうやつがこの島へ上陸した

としたら、いったい、どこにかくれているでしょうね」

「それは、ええ、たぶん、あの摺すり鉢ばち山だろうと思います」

 清水さんもようやく落ち着きを取りもどしている。

轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

热门TAG:
[查看全部]  相关评论