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魔术师-消失せた令嬢(2)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示: 行って見ると、洞穴の入口は、蓬々(ぼうぼう)と生い茂った雑草に覆われて、一寸見たのでは少しも分らぬ様になっていた。 その
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 行って見ると、洞穴の入口は、蓬々(ぼうぼう)と生い茂った雑草に覆われて、一寸見たのでは少しも分らぬ様になっていた。
 その雑草をかき分けて、用意の小型懐中電燈を点じて、穴の中へ這い込んで見たが、大方想像していた通り、そこにはもう、人の影もなかった。
「アラ、こんなものが落ちていましたわ」
 文代が目ざとく、土の中から拾い上げたのは、銀製のヘヤピンである。見覚えとてないけれど、妙子さんのものに相違ない。
「やっぱりそうだ。もう今頃は、あいつの船へ連れ込まれている時分かも知れません。サア、船へ行きましょう。まさか、あなたを置去りにして出帆(しゅっぱん)してしまうこともないでしょう。僕をその船へ案内して下さい」
「エエ、それはもう、あたし覚悟していますけれど、あなたお一人では……」
「ナニ、心配することはありません。グズグズしていては、手おくれになります。それに大勢で向うよりも、僕一人の方が却って仕事が仕易いのです。僕はもうちゃんと、その手だてを考えてあります」
 そこで、二人は手を取って、大通りまで駈け出すと、タクシーを(やと)って、隅田河口(かこう)へと飛ばした。
 文代の指図で車の止った所は、月島海岸の見渡す限り人気もない、淋しい広っぱであった。川口の航路をさけて、遙か彼方に、一艘の小型汽船が、泊るともなく漂うともなく浮んでいる。淡い檣燈(しょうとう)の光で、やっとその所在が分るのだ。
「何か合図があるのですか」
 親船から(はしけ)を呼ばねばならぬ。それには賊の定めた合図がある筈だ。
「エエ」
 文代は答えて、ポケットからマッチを出すと、それをシュッとすって、二三度振り動かし、燃えかすを海の中へ投げ捨てた。
 暫く待つと、ギイギイとオールのきしり、小型ボートが白い小波(さざなみ)を立てて、岸に近づいて来た。
 明智はす早く岸の石垣に隠れる。
「文ちゃんかい」
 ボートから低い声が尋ねた。
「エエ、お前、三次(さんじ)さん?」
「そうだよ。もう親父さん帰っているぜ。文ちゃんはどこへ行ったと、えらく探していたぜ」
「お父さん、一人で帰ったの」
「インヤ、例のお嬢さんと二人連れさ」
 低い声だけれど、明智はこの問答を、すっかり聞き取った。
「三次さん、ちょいとここまで上ってくれない。荷物があるのよ」
 文代は兼ねての打合わせに従って、三次を上陸させようとした。
「荷物だって、何を又買い込んで来たんだね」
 それとも知らぬ、お人好しの三次は、ボートをもやって、ノコノコと石段を上って来た。
「文ちゃん、荷物って、どこにあるんだい」
「ここよ」
「どれ、どこに」
 と、三次が覗く石垣の蔭から、ヌッと現われた黒い人影。
「ヤ、貴様、一体誰だッ」
「ハハハハハハ、びっくりしなくてもいい。声さえ立てなければ、無闇(むやみ)に発砲する訳じゃないんだから」
 明智がおとなしい口調で答えた。だが彼の右手には、ピカピカ光るピストルの筒口が、三次の胸板を狙っている。

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