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象の鼻

时间: 2022-08-09    进入日语论坛
核心提示:智恵の一太郎江戸川乱歩象の鼻 明石一太郎(あかしいちたろう)君は、学校のお友だちや近所の人から、「智恵の一太郎」というあだ
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智恵の一太郎

江戸川乱歩

 

象の鼻

 明石一太郎(あかしいちたろう)君は、学校のお友だちや近所の人から、「智恵の一太郎」というあだなをつけられていました。それは、一太郎君がとても、うまい(かんがえ)を出して、みんなをびっくりさせたことが、いくどもあったからです。
 近所のおばさんなんかは、一太郎君を「頓智(とんち)がうまい」といってほめましたが、一太郎君の智恵はただの頓智ではなくて、何でもすじみちを立てて、よく考えてみるという智恵なのです。「なぜ」ということと「どうすれば」ということを、ほかの子供たちよりも、ずっとよけいに考える気質だったのです。
 昔からのえらい発見や発明はみな、この「なぜ」と「どうすれば」の二つがもとになっていることは、みなさんもごぞんじでしょう。ニュートンという学者は、「ほかの物はおちるのに、なぜ、月だけはおちないのだろう」とふしぎに思い、その「なぜ」をどこまでもどこまでも考えていって、あの「引力の法則」というものを発見したのです。
 また、飛行機を一ばんはじめに考え出した人は、「どうすれば、人間も鳥のように飛べるだろうか」ということを一心に考えつめたからこそ、それがもとになって、世界に今のように飛行機時代が来たのです。「なぜ」と「どうすれば」が、私たちにとって、どんなに大切かということは、このたった二つの例を考えただけでも、よくわかるではありませんか。
 一太郎君はまだ小学校の六年生ですから、そんな大学者や大発明家のような、えらい智恵はありませんが、でも、「なぜ」と「どうすれば」を考えることでは、学校のお友だちのだれにも、ひけはとりませんでした。
 学科のうちでは算数と理科がとくいで、算数のむずかしい問題をといたり、理科の実験をしたり、飛行機や機関車の模型をつくったり、望遠鏡や顕微鏡をくふうしてこしらえたり、そういうことが何よりもすきで、少年発明品展覧会に、自分で考え出した模型を出品して、ごほうびをいただいたこともあるくらいです。
 それから、一太郎君はむずかしい謎をとくのもとくいでした。頓智でとくのではなくて、すじみちを立てて、よく考えてとくのです。でも、ほかの人には、一太郎君が頭の中で考えたすじみちはわからないものですから、いきなりむずかしい謎をといてみせますと、みんなびっくりしてしまい、それが評判になって、いつのまにか「智恵の一太郎」などと呼ばれるようになったわけです。
 私はこれから、一太郎君がみんなを感心させたお話のうちから、皆さんの参考になりそうなのをえらんで、一つずつ書いて行くつもりですが、今度は最初のことですから、一太郎君がまだ五年生だったころの、ごくやさしいお話をいたしましょう。みなさんのうちには、一太郎君よりも、もっともっと考えぶかい、智恵のすぐれた方もいらっしゃるでしょうが、でも、このお話は、そういう方にも、きっとおもしろいだろうと思います。
 それは、一太郎君がもう一月ほどで五年をおわって、六年に進もうという、ある春の日の夕方のことでした。お家から三百メートルほどはなれたところにある、広い原っぱで、一太郎君は五年生の木村良雄(きむらよしお)君と、(たま)投げをして遊んでいました。一太郎君は考えぶかくはあるけれど、ひっこみ思案で、部屋にばかりくすぶっているような少年ではありません。頬が林檎(りんご)のようにつやつやして、目がクリクリと丸くて、いつもにこにこしていて原っぱを走りまわったり、野球をしたりするのが大すきだったのです。
「オーイ、こんどは、もうれつな直球だよ」
 良雄君は、大声にさけびながら、いきおいこめて、球を投げました。ところが、良雄君があまり力をいれすぎたものですから、球は、一太郎君の、はるか頭の上を飛びこして、うしろの池にボチャンとおちてしまいました。
(よっ)ちゃん、そんな暴投しちゃだめじゃないか」
 一太郎君は良雄君にどなっておいて、いそいで池のふちにかけつけ、ゴムまりを拾おうとしましたが、まりは池のふちから二メートルもはなれた水の上に、ポッカリと浮かんでいて、長い棒でもなければ、とても取ることができないのです。
 良雄君もかけつけて来て、池のふちにしゃがんで、両手で水をこちらにかきよせてみましたが、そんなことをすれば、球はかえって向こうの方へ行ってしまうばかりです。靴をぬいで、水の中にはいって、球のところまで行けばよいのですが、そこはどろ沼のようなきたない池でしたから、水の中にはいろうものなら、いきなりズブズブと底のどろの中へ足をふみこみ、ズボンも上着もどろまみれになってしまいます。どう考えても、長い棒がなくては、球はとれないのです。二人はしばらく、顔見合わせて立っていましたが、やがて良雄君が、
「僕、家へ行って竿竹(さおだけ)もってくるから、まっててね」
 といって、かけ出して行きました。良雄君のお家の方が、一太郎君のお家よりも近いからです。
 それから三分ほどたって、良雄君は長い竹をかついで、息をきらして、池のそばへかけて来ましたが、そこに立ってにこにこ笑っている一太郎君を見ますと、びっくりして立ちどまってしまいました。これはまたどうしたのでしょう。ゴムまりは一太郎君の手の中に、ちゃんと、もどっていたではありませんか。
「ア、君、どうして取ったの?」
 良雄君はさもさもふしぎそうな顔をして、一太郎君の腰から下を見つめました。でも、一太郎君のズボンも靴も、靴下も、少しもぬれていないのです。球を取るために池の中へはいったのでないことは、一目でわかります。では、二メートルも向こうにある、あのまりをどうして、取ることができたのでしょう。
「だれかおとなの人に取ってもらったのじゃない」
「君が行ってから、だれもここを通りやしないよ」
「じゃ、どうして取ったのさ。へんだなあ。ほんとうかい、君。ほんとうに君が取ったのかい?」
 良雄君は、どう考えてもわからないという顔つきです。
「君が行ってから、じっと考えていると、やり方がわかってきたんだよ。よく考えれば何でもないんだよ」
 一太郎君はべつにとくいらしい様子もなく、にこにこしています。
「ア、わかった。智恵の一太郎が、またなんだか考え出したんだね。いってごらん。どうして取ったのさ」
 そこで、一太郎君は、話しはじめました。
「あのね、僕、動物園の象の鼻のことを思いついたんだよ。君、知ってるかい。象におせんべいを投げてやるだろう。そのおせんべいが、象の鼻のとどかない所へおちると、象はどうしておせんべいを取るか知ってるかい。僕、いつか見たんだ。象はね、おせんべいの向こうの壁に、鼻でフーッと息をふきつけるんだよ。そうすると、その息の風が壁にあたって、こちらへかえってくるだろう。象の鼻の息ってすごいよ。だから、おせんべいがこちらの方へ、コロコロところがるのさ。象のやつすました顔でころがって来たおせんべいを、鼻でつまんで、口の中へ入れるんだよ」
「そうかい、さすがは智恵の一太郎だね。僕、知らなかったよ。で、それがどうしたのさ。ここには象なんていないじゃないか」
「だから、象の鼻のかわりになるものを考えてみたのさ。なんでもないんだよ。ホラこれさ」
 一太郎君は、そういって、足もとの地面をゆびさしました。でも、良雄君には、まだわからないのです。
「なんにもないじゃないか。石がころがっているばかりじゃないか」
「だから、この石なんだよ。見ててごらん。君はきっと、なーんだ、そんなことかっていうにきまっているよ。ほら、あすこに木ぎれが浮いてるだろう。あれを取ってみるからね」
 一太郎君はそういいながら、しゃがんで、そのへんにころがっていた、にぎりこぶしほどもある石をひろって、いきなり、それを池の中へ投げこみました。
 すると、石は木ぎれの五六センチ向こうに落ちて、ドブンと大きな水しぶきをあげ、その水の動くいきおいにつれて、木ぎれは三十センチほども、岸の方へ、ただよいよりました。
 波がしずまるのをまって、一太郎君は、又べつの石をひろい、前のように投げました。そして、次々と、五つの石を投げたのですが、一つ投げこむたびに、木ぎれは少しずつ岸の方へ近づいて、五つ目の石を投げた時には、木ぎれはもう、岸から手のとどくところに来ていました。一太郎君はしゃがんで、手をのばし、それをひろい上げました。
「ね、わかったかい。この石のたてる水しぶきが、象の鼻息のかわりなのさ」
「なーんだ。そんなことか」
 良雄君は、さっきおどろいたのが、はずかしいというような顔つきです。
「ほらね、きっとそういうだろうと思った」
 一太郎君は、そういって、丸い目をクリクリさせながら、やはりにこにこと笑っていました。
 みなさん、一太郎君の考えはほんとうに、なんでもないことでした。
 でも、「なーんだ」という良雄君には、それが考えられなかったではありませんか。ですから、これはやっぱり一太郎君の考えぶかさをあらわしているのです。
 動物園の象の鼻を、気をつけてよく見ておいたおかげです。そして、この池ではどうすれば象の鼻と同じことが出来るかと、よく考えてみたおかげです。
 みなさん、「どうすれば」の大切なことがおわかりでしょう。
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