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月とゴム風船

时间: 2022-08-09    进入日语论坛
核心提示:月とゴム風船 一太郎君は、月があんまり小さく見えたので、びっくりしてしまいました。 大学生の高橋さんに教わって、長さ五十
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月とゴム風船

 一太郎君は、月があんまり小さく見えたので、びっくりしてしまいました。
 大学生の高橋さんに教わって、長さ五十(センチ)ほどの画用紙の筒で、空の月をのぞきながら、その紙筒の先をだんだん細くまいていきますと、月の方でもだんだん小さくなっていって、紙筒の先の穴が、さしわたし三(ミリ)ほどになっても、月は、まだちゃんとその中に見えていたのです。
 洋食皿よりも少し小さいくらいだと思っていた月が、紙筒でのぞいて見ると、米つぶほどになってしまったのです。
 なぜそんなに小さく見えるかというわけは、前に書いてあるとおりですが、その実験をしてから二三日たった夕方、一太郎君はまた高橋さんのお家へ遊びに行きました。昼間道で出あった時、この前よりも、もっとおもしろい実験をして見せるからと、さそわれたからです。
 お庭の方へはいって行きますと、高橋さんは縁側に腰をかけ、手に、この間の晩の画用紙の筒を持って、にこにこしながら、一太郎君を待っていました。
「やあ、よく来たね。今日は、もう一度君をびっくりさせてあげようと思って、ちゃんと用意がしてあるのだよ。だが、まずあの月をごらん。ほら、むこうの家の屋根の上だよ」
 高橋さんにいわれて、その方をふりむきますと、そこに、とても大きな月が出ていました。
 まだ暮れきらぬ夕ぐれの、うす明かるい空に、朱色をした大きな大きな月が、ぼうっと浮かんでいました。いつも空の上の方で見る銀色の月にくらべると、五六倍もあるかと思われる大きさです。
「わあ、でっかい月だなあ。まるで赤いお盆のようですね」
「大きいだろう。この間ここで見た月とは、まったく別もののように見えるね。なぜだろう。なぜ、こんなに大きく見えるのだろう」
「それは、出はじめだからでしょう。月でも太陽でも、出はじめには、みんな大きく見えるのでしょう」
「そうだね。出はじめは大きく見える。それから西の方へかくれる時にも、また大きくなる。なぜ空の上の方では小さくて、出る時と入る時には、あんなに大きく見えるのだろうね。さあ、今日の問題はこれだよ。答えられるかい」
 高橋さんは、あの意味ありげな笑い方をして、じっと一太郎君の顔を見るのでした。
 一太郎君は、はっとしました。わかりきっているように思っていたことが、ほんとうは、少しもわかっていなかったからです。出る時と入る時には、月が私たちに近くなるので、大きく見えるのでしょうか。けっしてそんなことはありません。月は地球のまわりを廻っているのですから、出る時と入る時だけ、ことさら地球に近くなるわけがありません。
 近いから大きく見えるのでないとすれば、では、なぜでしょう。なぜ、あんなに大きく見えるのでしょう。
 高橋さんの質問は、いつもこんな風に、一太郎君をびっくりさせるのでした。ごくなんでもないことの中から、じつにふしぎな、あっとおどろくような問題を探し出して、見せてくれるのです。
「ハハハ、すっかり考えこんでしまったね。それじゃ、君はあの屋根の上の月が、ほんとうに大きいと思っているのかい」
 高橋さんは、また妙なことをいいだしました。
「え、なんですって?」
 一太郎君には、高橋さんのいうことが、よくのみこめないのです。目をパチパチさせています。
「ハハハ、めんくらっているね。今にわかるよ。さあ、この紙筒をごらん。この先の穴は、この間の晩、空の上の方にある月をのぞいた時と、同じ大きさにしてあるんだよ。直径三粍ほどの小さな穴だ。この間の晩のぞいた時は、月が三粍の穴に、ちゃんと一ぱいになって見えたんだね。
 だから、今あすこに出ている大きな盆のような月が、もしこの間の月よりも大きいとすれば、この三粍の穴には、はいりきらないわけだろう。さあ、ためしにのぞいてごらん。この穴に入るか入らないか」
 一太郎君はいわれるままに、紙筒を受取って、その広い方の口を目にあて、望遠鏡をのぞくようにして、先の方の小さい穴を月に向けました。
 すると、これはどうでしょう。ふしぎなことには、あのお盆のような大きな赤い月が、米つぶほどの、その小さな穴に、すっかりはいりきってしまったではありませんか。
「やあ、へんですねえ。この間の小さい月と、ちっともちがわないですよ。ただ色が赤いだけで、大きさは、すっかり同じですよ。ふしぎだなあ。どうして、これでのぞくと、あの大きな月が、一ぺんに小さくなってしまうのでしょう」
 ただ一枚の画用紙をまいた紙筒が、いよいよ魔法眼鏡のように思われてくるのでした。
「それがほんとうなのさ。出はじめの月も、高くのぼった月も、大きさはちっともちがわないのだ。目にうつっている大きさも、同じことなんだ。ただ、出はじめの月の方が、ひどく大きいような気がするだけなんだよ。
 その証拠にはね、出はじめの月と、高くのぼった月を、写真にとってくらべてみると、少しも大きさがちがわないのだよ。写真は正直だからね」
「ほんとうですか。だって、あんなに大きく見えるじゃありませんか。ちょうどお茶碗とお盆ぐらいも、ちがうじゃありませんか」
 一太郎君には、目にうつっている大きさが同じだなんて、どうにも信じられないのでした。
「大人が子供にとりかこまれていると、大人はたいへん大きく見えるだろう。ところが、その同じ大人の人を、相撲の横綱とならべて立たせて見ると、今度はひどく小さく見えるね。
 月もそうなんだよ。広々とした空の真中にいる時には、まわりがあんまり広いものだから、月は小さく見える。ところが、出はじめの時は、建物の屋根だとか、森だとか、いろいろなものが近くにあるので、なんにもない空にある時よりも、大きく感じられるのだよ。目にうつっている大きさは、少しもちがわないのだ。
 だが、それだけじゃない。それよりも、もっと大きなわけがあるのだよ。それは口でいうよりも、実験してみると、一番よくわかる。さあ、こちらへ来てごらん。ちゃんと用意がしてあるんだよ」
 高橋さんは、そういって、縁側から立ち上ると、一太郎君をつれて、庭の奥の方へ歩いて行きました。木立の間を通りすぎると、そのむこうに、野菜の作ってある、ひろい空地があります。月は出ていても、まだ夕方ですから、小さなものまで、よく見えるのです。
「おや、ゴム風船ですね。めずらしいなあ。今こんなもの、どこにも売っていないのですよ」
「僕の友だちで、前にこういうものの製造をしていた人があってね、そこの棚のすみに残っていたのを、手に入れてきたのさ」
「あれ、あんな高い所にもありますね」
「うん、二つなくては実験ができないのだよ。両方とも水素瓦斯(ガス)を入れて、一ぱいにふくらませてあるんだ」
 真赤なゴム風船が二つ。一つは(はたけ)のむこうのすみの、地面から一米ほどの高さに、一つはこちらの空高く、フワリと浮いています。両方とも糸でしばって、石のおもりがつけてあるのです。
「ずいぶん高いですね。どうして、あんなに高く上げてあるのですか」
「実験をするためだよ。さあ、君はここにじっと立っているのだよ。そしてね、あの畠のむこうにある風船と、頭の上にあがっている風船とを見くらべるのだ。
 むこうの風船は、ちょうど君の目の高さぐらいのところに浮いているね。こちらの風船は君の頭の真上にある。
 さあ、見くらべてごらん。まず頭をまっすぐにして、むこうの風船を見、それから、上を向いて空の風船を見るのだ。よしよし、それでいい。どちらが大きく見えたね」
 一太郎君は、幾度も上を向いたり、前を見たりしたあとで、答えました。
「むこうの風船の方が、ずっと大きく見えます」
「そうだろう。さて、今度は空に上っている風船の糸をたぐって、だんだん引きおろすからね。君はたえず、両方の風船を見くらべていて、ちょうど同じぐらいの大きさに見えた時に、『よし』といって合図をするんだよ。さあいいかい、はじめるよ」
 高橋さんは一太郎君のうしろに立って、そろそろと風船の糸をたぐりはじめました。
「まだ同じ大きさにならない?」
「うん、もう少し」
「まだかい?」
「よし、そこでいい。ちょうど同じぐらいに見えます」
 それを聞くと、高橋さんは、糸をたぐる手をとめて、糸の、一太郎君の目のへんにあたる所を、別の赤い糸でしばって、目じるしをつけました。
「さあ、今度は、君の指でこの赤い糸のところをしっかりつまんで、目のそばにくっつけて、そのままじっと動かないでいるんだ。いいかい」
 高橋さんはそう命じておいて、高く上っている風船をグングンたぐりながら、畠のむこうの風船の方へ歩いて行きました。
 やがて、空に上っていた風船が高橋さんの手元にたぐりよせられ、一太郎君のつまんでいる糸が、ピンと一直線にはりきった所で、高橋さんは立ちどまりました。そこは畠の真中で、むこうの風船との間は、まだ数米へだたっているのです。
「さあ、こうして横に引っぱって、同じ高さにすると、今度はどちらが大きく見えるね」
 高橋さんが大声でたずねました。
「あ、へんですねえ。高橋さんの持っている風船の方が、ずっと大きく見えますよ」
 一太郎君は、またびっくりしました。
「いいかい、この風船が空に上っていた時も、こうして横に引っぱった時も、糸の長さは同じなんだから、君の目と風船のへだたりも同じわけだね。ところが、その同じへだたりのものが、頭の上にあった時には、むこうの風船と同じ大きさに見え、引きおろして横に引っぱって見ると、今度はむこうの風船よりもずっと大きく見える。そうだろう」
「え、そうです。ふしぎだなあ」
 一太郎君は、どうもまだよくわからないのです。
「それじゃ今度は、赤い目じるしのところをはなして、下のおもりの石から、君の目の高さぐらいの所をつまんでいてごらん」
 一太郎君がいわれた通りにしますと、それだけ糸がたるみましたので、高橋さんはそれをピンとさせるために、あとじさりをして、とうとう畠のむこうの風船のそばまで行ってしまいました。
 そして、糸がピーンとはりきった時、二つの風船はぴったりとくっついてならびました。つまり、糸の長さは、ちょうど一太郎君の立っているところから、畠のむこうの風船までのへだたりと、全く同じだったのです。
「わかったかい。空に上げてあった風船の糸は、君の所から、こちらの風船までの長さと、ちょうど同じにしてあったのだよ。
 だから、これが空に上っていた時の、君の目からのへだたりは、下の風船と同じだったのだ。同じ遠さの所にあったのだ。ところが、さっき君が見た時には、空に上っている方が、ずっと小さく見えたんだね。それで、同じ大きさになるまで、下へたぐりよせたんだね。

图片1

 さあ、この二つを見くらべてごらん。今はどちらが大きい?」
「同じです。ちっともちがいません」
「ハハハ、わかったかい」
 高橋さんは笑いながら、一太郎君のそばへもどって来ました。
「月もちょうどこれと同じなんだ。横の方にいる時は大きく見え、頭の上にのぼると小さく見える。目には同じ大きさにうつっているのだけれど、それがちがうように感じられるのだ。それから、月は風船なんかとくらべものにならぬほど遠くにあるので、大きく見える度合もずっと強いのだよ」
「わかりました。ほんとうにふしぎですねえ。でも、高橋さん、それはなぜでしょう。どうして頭の上にある時は小さく見え、横にある時は大きく見えるのでしょう」
「うん、いい質問だ。さすがは君だよ。だがね。それは僕にもわからないのだ。世界中の誰も、まだそのわけを知らないのだ」
「へえー、誰も知らないのですって?」
 一太郎君は、ふしぎそうに聞きかえしました。
「うん、ほんとうのわけは、まだわかっていないんだよ。こういうことを研究するのは心理学という学問だが、その方の学者にも、そのわけがわからないのだ。こうではないかといって、自分の意見を書いた人はいろいろあるけれども、まだ、それにちがいないというところまでは行っていないのだよ。君はふしぎに思うだろうね。こんな何でもないようなことが、世界中の学者にわからないなんて。だが、この世の中には、わかっていることよりも、わからないことの方が、何十倍も何百倍も多いのだよ。
 君が大きくなったら、そのたくさんのわからないことのうち、たった一つでもいいから、わからせるように、一生けんめいにやってみるんだね。そうするのが、君のような性質の人には、何よりも世間のためになり、お国のためになるのだからね」
 そういって、高橋さんは、頬を赤くして聞き入っている一太郎君の肩を、やさしくたたくのでした。
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