「お母さん。わたし、これからどうしたらいいの?」
お葬式の日、一人ぼっちになったカーレンが泣いているとお金持ちのおばあさんが馬車(ばしゃ)で通りかかりました。
そしてカーレンを可愛そうに思ったおばあさんは、牧師(ぼくし)さんに言いました。
「わたしに、その子の世話をさせて下さいませんか?」
こうしてカーレンは、おばあさんの家で暮らす事になったのです。
それからカーレンは、勉強をしたり、おさいほうを習ったりと、とても楽しく暮らしました。
今までの貧乏な暮らしが、まるでうその様に素敵な毎日です。
ある日の事、女王さまがお姫さまを連れて町へやって来ました。
カーレンが見に行くと、お姫さまはきれいな服を着て、目の覚める様な美しいまっ赤な靴をはいていました。
(素敵な靴)
その日からカーレンは、そのまっ赤な靴の美しさを一日も忘れる事が出来ませんでした。
それから、何年かたちました。
カーレンもそろそろ、大人の仲間入りをする年頃です。
ある時カーレンは靴屋の店先で、お姫さまの靴とそっくりな赤い靴を見つけました。
(あの靴が欲しいなあ)
カーレンがその靴を欲しがっている事を知ったおばあさんは、カーレンにその靴を買ってやりました。
「まあ、素敵な靴をありがとう。実はとっても欲しかったの。さっそくこれをはいて、教会へ行ってみたいわ」
それを聞いたおばあさんは、カーレンに注意しました。
「カーレン。教会へは、黒い靴をはいていくものですよ。そんな赤い靴をはいて行ってはいけません」
「???はい。わかりました」
カーレンはそう返事をしましたが、でもしばらくたっておばあさんが重い病気で寝込んでしまうと、カーレンはいつもいつも赤い靴をはいて教会へ行ったのです。
(うふふふふふっ、みんな、わたしの靴を見ているわ)
カーレンには教会にいる大勢の人たちが、うらやましそうに自分の靴を見ている様に思えて、とてもうれしくなりました。
ある日カーレンは、ダンスパーティーに招かれました。
そこでカーレンは病気で苦しんでいるおばあさんの看病もせず、おしゃれに夢中になりました。
そして赤い靴をはいて、パーティーに出かけようとした途端、大変な事が起こりました。
赤い靴がひとりでに動き出して、ダンスを踊り始めたのです。
「止まらない! 止まらないわ!」
どんなに止めようと思っても、赤い靴はダンスを止めてくれません。
そしてカーレンは赤い靴にあやつられるまま、外へ踊り出しました。
カーレンは踊りながら町を出て行くと、暗い森の中へ入って行きました。
すると木かげに赤いひげを生やした気味の悪い魔法使いのおじいさんが立っていて、カーレンにこう言ったのです。
「ほう、何ともきれいなダンス靴だな。お前が心を入れ替えない限り、そのダンス靴は踊り続けるだろう」
すると赤い靴のダンスは、ますます激しいものとなりました。
さて、何日が過ぎたのでしょうか。
朝も昼も夜も、晴れた日も雨の日も踊り続けたカーレンは、疲れ果ててボロボロです。
でも、赤い靴はダンスを止めてくれません。
フラフラになったカーレンが自分の家のそばまで踊りながら来た時、カーレンはおばあさんのお葬式に出会いました。
それを見るとカーレンは、胸が張り裂けそうな気持ちになって大声で泣き出しました。
「ああ、おばあさん、ごめんなさい」
あの優しかったおばあさんが死んでしまったのは、自分が看病をしなかったせいだと思ったのです。
「神さま、どうか、どうか、おばあさんが天国へ行けますように。わたしはこのまま死んでもかまいません。だからおばあさんを、どうか天国へ連れて行って下さい」
その時、あたりにサーッとまばゆい光が差し込んで来ました。
そしてその光の中に真っ白な服を来た天使(てんし)が立っていて、カーレンに微笑みました。
「お前の願いは神さまに届きました。おばあさんは無事に天国へ行けるでしょう。そしてお前の罪も、神さまは許して下さいましたよ」
すると赤い靴がカーレンの足からぬげて、カーレンのダンスがようやく終わりました。