わたしは、高い空の上にいる月です。
タ方から朝になるまで、いろんな国のいろんなところをながめます。
では、ゆうべ見た事を、話してあげましょう。
夜明けの事です。
大きな町のどの煙突(えんとつ)も、まだ煙(けむり)をはいていません。
だってまだ、みんな眠っている時間ですもの。
でもわたしはただ一つ、おきている煙突を見つけました。
ただし煙突から出てきたのは煙ではなく、とびきり元気のいい男の子の口笛(くちぶえ)でした。
煙突からピョコンと男の子が顔を出した時、わたしは思わずふき出してしまいましたよ。
だって、おでこと鼻の頭と右のほっぺが、すすでまっ黒なんですもの。
でもそんな事は気にしない様子で、男の子は煙突のふちに両手をかけると、いきなり大きな声で叫びました。
「ばんざーい!」
この子は、煙突掃除屋(えんとつそうじや)さんだったのです。
男の子は生まれて初めて、煙突の中をてっぺんまで登ってきたのです。
その時ちょうど、太陽が東の空に姿を現わしました。
男の子は、明るくなった町を見わたして言いました。
「町が、おいらを見てる!」
そして、わたしを見あげて言いました。
「お月さんも、おいらを見てる!」
それから、
「お日さまも、おいらを見てる! ばんざーい!」
ほうきをクルクルふりまわしながら、とってもうれしそうでしたよ。