「ねんどで、我々と同じ姿をした生き物を作れ。わしが息を吹き込んで、命を与えてやろう」
プロメテウスが言いつけ通りの生き物を作ると、ゼウスはそれに命を吹き込んで人間と名付けました。
次にゼウスは、プロメテウスにこんな命令をしました。
「人間に生きていく為の、知恵を授けてやれ。ただし、火を使う事を教えるな。火は、我々神々だけの力。人間に火を使う事を教えると、我々の手におえなくなるかもしれんからな」
こうしてプロメテウスは、人間に家や道具を作る事、穀物(こくもつ)や家畜(かちく)を育てる事、言葉や文字を使う事などを教えました。
しかし火がなくては、物を焼く事も煮る事も出来ません。
いつも寒さに震え、真っ暗な夜は動物たちに襲われる恐怖におびえていました。
そこでプロメテウスはゼウスの言いつけにそむいて、人間に火を与える事を決心しました。
プロメテウスは弟のエピメテウスを呼ぶと、こう言いました。
「おれは人間たちを、とても愛している。
だから人間たちに、火を与えるつもりだ。
だがそれは、ゼウスの怒りにふれる事。
おれはゼウスに、ほろぼされるだろう。
だからお前が、おれの代わりに人間を見守ってやってくれ」
プロメテウスはそう言うと、太陽から盗み出した火を人間に与えたのです。
そして怒ったゼウスに山につながれて、ワシに食い散らされてしまいました。
間もなくゼウスは、職人の神へパイストスに命じて、この世で一番美しいパンドラを作らせると、エピメテウスのところへ連れて行かせました。
人間に火をもたらした罰に送り込まれたともいえるパンドラには、神々からさまざまな贈り物をさずけられていました。
美の女神 アフロディーテからは美しさを、アポロンからは音楽と癒しの力を、そして何よりゼウスは、パンドラに好奇心を与えていたのでした。
エピメテウスはパンドラの美しさに心を奪われると、パンドラを自分の妻にしました。
エピメテウスの家には、プロメテウスが残していった黄金の箱がありました。
黄金の箱は、病気、盗み、ねたみ、憎しみ、悪だくみなど、この世のあらゆる悪が閉じ込められていて、それらが人間の世界に行かないようにしていたのです。
プロメテウスはエピメテウスに、
「この箱だけは、決して開けてはならない」
と、言っておいたのですが、パンドラはこの美しい箱を見るなり、中にはきっと素晴らしい宝物が入っていると違いないと思いました。
そこで夫に箱を開けて欲しいと頼みましたが、エピメテウスは兄との約束で、決して首を縦に振りません。
するとパンドラは、
「あなたが箱を開けてくださらなければ、わたしは死んでしまいます」
と、言い出したのです。
そこでエピメテウスは仕方なく、兄との約束を破って箱を開けてしまいました。
そのとたん、箱の中からは病気、盗み、ねたみ、憎しみ、悪だくみなどのあらゆる悪が、人間の世界に飛び散ったのです。
エピメテウスがあわててふたを閉めますと、中から弱々しい声がしました。
「わたしも、外へ出してください???」
「お前は、誰なの?」
パンドラが尋ねると、
「わたしは、希望です」
と、中から声が返ってきました。
実はプロメテウスが、もしもの為に箱に忍び込ませておいたのです。
こうして人間たちは、たとえどんなひどい目にあっても、希望を持つ様になったのです。