女の子の名前は、アラクネと言います。
アラクネは、毎日毎日、はたおり機の前に座って、色々なもようの布をおりました。
アラクネのおるおり物の美しさは大変な評判(ひょうばん)で、国中に知れ渡りました。
いや、国中どころか、外国にまで有名になりました。
そして遠くの国からも、わざわざアラクネのはたおりを見に来る人もいたのです。
「まったく、アラクネのおり物ときたら、すばらしい」
「もようの美しさは、目が覚める様ね」
「世界一のおり物だ」
みんながほめるので、アラクネは得意になって、いばるようになりました。
「その通り。世界中で、あたしぐらいはたおりの上手な者はいないでしょう。はたおりの神さまのアテナさまだって、あたしほど上手におる事は出来ないわ」
そのうわさを聞いたアテナは、
「なんてうぬぼれの強い子だろう。よし、わたしが行って、たしなめてやろう」
と、言いました。
そしておばあさんに姿を変えると、アラクネの家へ行きました。
「なるほど、お前さんはなかなかはたおりが上手だね。大したもんだ。でもね、いくら上手だからって、神さまをバカにしてはいけないよ」
アテナが言うと、アラクネはいばって言い返しました。
「だって、あたしはアテナさまよりうまいんですもの。うそだと思うなら、競争(きょうそう)してもいいわ」
「何を、なまいきなっ!」
アテナは、パッと元の姿になりました。
「さあ、わたしとはたおりの竸争をしよう」
「いいわ。あたしの腕前を見せてあげる」
アテナとアラクネは、はたおりの競争を始めました。
二人とも、ものすごい勢いで布をおりはじめました。
どちらも負けるものかと、夢中で布をおります。
やがて二人とも、すばらしい布をおりあげました。
アテナのおったもようは、美しい神さまの姿でした。
ところがアラクネのおったもようは、神さまたちがけんかをしている様子でした。
「お前は、よくも神さまをバカにしたね!」
アテナはカンカンに怒って、アラクネのおった布をズタズタに引き裂くと、アラクネの頭をつえで三回叩きました。
すると、どうでしょう。
アラクネの体はみるみるうちに小さくなり、フサフサと美しかった髪の毛もなくなり、お腹がふくらんできました。
そして、手や足は八本になりました。
おまけに、毛むくじゃらです。
アラクネは、みにくいクモにされてしまったのです。
「うぬぼれのおバカさん、そんなにじまんするのなら、いつまでもはたをおっているがいい」
アテナはそう言って、クモになったアラクネをにらみつけました。
クモになったアラクネは今でも銀色の糸を出して、一生懸命はたをおっているのです。