「姫に、はやく孫の王子が生まれます様に」
と、祈っていると、神さまが現れました。
「姫には、男の子が生まれる。けれどその子に、お前は殺されるだろう」
やがて本当に、男の子が生まれました。
恐ろしくなった王さまは、赤ん坊を箱に乗せて海に流しました。
箱は、遠い島に着きました。
赤ん坊のぺルセウスは、漁師に拾われて大事に育てられました。
ペルセウスは、かしこく強い若者になりました。
ある時、島の王が若者たちを呼んでごちそうをしました。
「よいか。今度みんなで、わしにおくり物を持って来るのじゃ」
すると、若者は口々に言いました。
「ウシはどうだ?」
「それより、立派なウマがいいよ」
「そうだ、ウマにしよう」
「いや、ゴルゴーンの首だ」
と、ペルセウスが言いました。
それを聞いた王さまが、命令しました。
「よし。ペルセウス、すぐにゴルゴーンを討ち取って来い」
ところがゴルゴーンというのは女の怪物で、髪の毛はヘビになっていて、見た者は石にされてしまうといわれています。
「ゴルゴーンのいどころは、誰もわからないんだ。調子に乗って、とんでもない事を言っちゃった」
困ったぺルセウスが海のそばで悩んでいると、そこへ戦の女神アテナと旅人の神のヘルメスが現れました。
「ペルセウス、たてを貸してあげましょう。これに写して見れば、石になる事はありません」
「わたしは、空を飛べる翼のクツを貸そう。三人で一つ目のおばあさんのところへ行って、寒い魔法の国へ行く道を聞きなさい。着いたら美しい妖精(ようせい)が、お前を助けてくれるだろう」
ペルセウスはよろこんで、空を飛んで行きました。
山のほら穴の入り口に、おばあさんが三人座っていました。
「あっ、あれだな」
降りて行くと、たった一つの目玉を、三人がかわりばんこに受け取っているところでした。
ペルセウスは飛び出して行って、目玉を取り上げました。
「さあどうだ。ぼくが尋ねる事を教えないと、目玉は返してやらないぞ」
「ああ、真っ暗だ。何でも教えるから、目玉を返しておくれ」
おばあさんたちが寒い魔法の国へ行く道を教えてくれたので、ぺルセウスは目玉を返してやりました。
また空を飛んで着いたのは、寒い魔法の国です。
美しい三人の妖精が、手招きをしています。
「みんなと遊びたいけれど、ぼくは怪物のゴルゴーンを退治に行かなければならないのです」
「では、ゴルゴーンの国へはやく行ける様、新しい翼のクツを貸してあげましょう。ヘルメスからもらった古いクツと取り替えなさい」
「わたしは、とっても丈夫な袋を貸してあげます。ゴルゴーンの首をお入れなさい」
三番目の妖精は、皮のボウシを持って来ました。
「これは、体が見えなくなるボウシです。これをかぶって、ゴルゴーンをうつのですよ」
「ありがとう。みなさん」
ペルセウスは海の上を日が沈む方向へ、まっしぐらに飛んで行きました。
飛び続けて、世界の果ての静かな国に着きました。
「おや? 人間や動物がたくさんいるぞ。でも、みんなピクリとも動かないな」
よく見ると、それはみんな石だったのです。
「ゴルゴーンのしわざだな。この近くにいるに違いない」
ペルセウスは魔法のボウシをかぶり、アテナのたてに辺りをうつしながら進みました。
海の近くにくるとほら穴があり、その中に美しい女がうつりました。
「あっ、ゴルゴーンだな。よしよし、みんな眠っているぞ」
聞いていた通りの恐ろしい怪物で、顔は美しいのですが髪の毛の一本一本がヘビになっていて、腰から下もヘビの体です。
「よし、眠っている。今のうちだ」
ペルセウスはゆっくり近づくと、持っていた剣を力いっぱい振り下ろし、見事にゴルゴーンの首を切り落としました。
ペルセウスは切り落とした首を妖精にもらった袋に入れると、そのまま空に飛び上がりました。
その後、ペルセウスは生まれた国に帰り、立派な王になったということです。