オリオンは、ふと足をとめました。
どこからか楽しそうな音楽と、それにまじって女の人たちの笑い声が聞こえてくるのです。
オリオンは草のしげみをかきわけて、その声の方へそっと進みました。
草のしげみの向こうには、森の中の広場がありました。
そこでは、美しい七人姉妹がおどっています。
長い髪を月の光にかがやかせ、ほほはバラ色です。
あまりの美しさにオリオンはしばらくウットリとながめていましたが、しばらくすると娘たちを少しからかってやろうと思いました。
そして、
「ウォーッ!」
と、化物のような声を出し、持っていた太いぼうをふりあげながら七人姉妹の方へ飛び出して行ったのです。
「きゃあ、こわい!」
七人姉妹はたちまち青くなり、急いでほら穴へ逃げ込みました。
「助けて! 助けてください!」
そのほら穴は、月と狩りの女神アルテミスのいる場所でした。
アルテミスは銀色の服のすそを広げて、七人姉妹をかくしました。
七人姉妹は、妖精だったのです。
そうとは知らないオリオンは、まだふざけて、
「ウォー! ウォー!」
と、ほえながら、ほら穴へ入って行きました。
すると、
「とまれ!」
アルテミスが、どなりました。
その声に、オリオンはドキッとしました。
強い魔法を持つ、アルテミスだとわかったからです。
アルテミスを怒らせたら、自分はどんな魔法をかけられるかわかりません。
オリオンは一歩後ろへ下がり、もう一歩下がると、ゆっくりふりむきました。
そしてそのまま、ほら穴を飛び出し逃げて行きました。
アルテミスはクスクス笑って、銀色のすその下にかくした七人姉妹に言いました。
「もう怖い事はありません。さあ出ていらっしゃい」
アルテミスは、銀色のすそを広げました。
すると、どうでしょう。
七羽のまっ白いハトたちが、飛び立って行ったのです。
その美しいハトたちは、月あかりの森へ飛んで行きました。
この様子を、ゼウスが見ていました。
そして美しい七羽の白いハトをいつまでも空にかざりたいと考えて、ハトたちを魔法で星にかえました。
この星たちが、おうし座の中でキラキラとかがやくスバル座だということです。