ある夏の日の事です。
アクタイオンは十匹のイヌを連れて、森へシカ狩りに出かけました。
森の道を十匹のイヌたちは、シカを追ってかけて行きます。
アクタイオンはイヌたちのあとについて、ほら穴の見える方へ走って行きました。
草をかきわけカーテンのような木のつるをよけて進んで行くと、ほら穴の向こうに泉が見えました。
泉から、何やら楽しそうな笑い声が聞こえて来ます。
アクタイオンは、木のかげからそっと様子を見て思わず、
「あっ!」
と、声を出してしまいました。
泉にいたのは美しい娘の姿の妖精(ようせい)で、月と狩りの女神のアルテミスのお供たちだったのです。
妖精たちは、アルテミスと水浴びを楽しんでいるところでした。
アクタイオンに気づいた妖精たちは、あわててアルテミスを隠しました。
そしてアルテミスは、アクタイオンをにらむと、
「無礼者(ぶれいもの)!」
と、叫びました。
そのとたん、アクタイオンのひたいからツノが生えました。
アクタイオンは体中がメリメリと音をたてて変っていくことに驚き、あわてて泉に姿をうつしました。
「ああ、なんということだ???」
アクタイオンは、なんとシカになっていたのです。
「どうしよう! ぼくはシカになってしまった! どうしたら人間に戻れるのだろう!」
シカになったアクタイオンは叫びながら、森の中をかけまわりました。
その時です。
ワンワンワンワン!
アクタイオンのイヌたちがシカになったアクタイオンを見つけて、目を光らせながら走って来るではありませんか。
「わあ、まて! 俺だ! お前たちの主人だ!」
アクタイオンは怒鳴りましたが、イヌたちにはシカの鳴き声にしか聞こえません。
そしてイヌたちは主人のアクタイオンにかみつき、ついにはアクタイオンを殺してしまったのです。
冬の星座の小イヌ座は、この時のアクタイオンの猟犬の中の一匹のメランボスというスパルタ犬であると言われています。