小ウサギが五十リットルのトウモロコシと、五十リットルのマメを取り入れました。
ずるがしこい小ウサギは、これでうんともうけてやろうと思いました。
小ウサギは朝早くムギわらボウシをかぶり、新しい上着を着て出かけました。
まずアブラムシの家に行って、トントンと戸を叩きました。
アブラムシはちょうど、コーヒーマメをひいていましたが、
「まあ、まあ、どなたかしら?」
と、言いながら戸を開けました。
「ああら、小ウサギさんじゃないの。どうぞ、お入りになって」
小ウサギは中に入って、イスに腰かけながら言いました。
「あなたに、わたしが取り入れた五十リットルのトウモロコシと、五十リットルのマメを安く売ってあげようかと思いましてね。
たったの五コロン(→日本円では百円ほどですが、現地ではフランスパンが10本以上買えます)で、いいんですよ」
「少し、考えさせてくださいな」
と、アブラムシは答えました。
「いやいや、それはこまります。
すぐ、決めてください。
あなたが買わないなら、誰かほかの人に話します。
もし買おうと言うのでしたら、土曜日の朝早く、わたしのところへ来てください」
「では、買う事にしましょう。
土曜日の朝七時頃に、荷車を持って品物をいただきにまいりますわ。
今、コーヒーをいれますから、召し上がっていってくださいな」
小ウサギは商売の話を決めた上に、コーヒーとケーキをごちそうになってアブラムシの家を出ました。
そして今度は、メンドリの家に行きました。
「メンドリさん。
実は、わたしがこの秋取り入れた五十リットルのトウモロコシと、五十リットルのマメをあなたに安く売ってあげようと思いましてね。
たったの、五コロンでいいんですよ」
メンドリは五コロンならたしかに安いと思いましたので、土曜日の朝八時頃に荷車を持って品物を取りに行くと約束しました。
小ウサギは、ここでも商売の話がうまくまとまった上に、おみやげに出来たてのチーズをもらいました。
それから今度は、キツネの家に行きました。
「キツネさん。
わたしがこの秋取り入れた五十リットルのトウモロコシと、五十リットルのマメを安く売ろうと思っているんですよ。
五コロンでいいんですが、買いませんか?」
キツネも、この申し出を喜んで受けました。
そして土曜日の朝九時頃、品物を取りに行くと約束しました。
小ウサギはここでも、たくさんごちそうになりました。
それから、オオカミのところへ行きました。
ここでも今までと同じように、トウモロコシとマメをうまく売りつけました。
オオカミは土曜日の十時頃、品物を取りに行くと約束しました。
最後に小ウサギは狩人(かりゅうど)のところへ行って、同じように商売の話をうまく取り決めました。
狩人には、十一時頃来てくれるように言いました。
いよいよ、土曜日になりました。
まだお日さまがのぼらないうちに、アブラムシが荷車を持ってやって来ました。
「トウモロコシもマメも家の後ろにありますから、荷車はそこへおいてらっしゃい。それがすんだら、ひと休みしていってください」
と、小ウサギは言いました。
アブラムシは言われた通りに、荷車を裏へ持って行きました。
それから家の中へ入って来て、約束の五コロンを小ウサギに渡しました。
それから小ウサギにすすめられるままに、長イスに腰をおろしてのんびりと葉まきタバコをふかしはじめました。
二人はしばらくの間、何やかやと話をしていましたが、突然小ウサギが叫びました。
「あっ、大変だ! メンドリがこっちへやって来ますよ」
とたんにアブラムシはまっ青になって、ブルブルとふるえ出しました。
「見つかったら、食べられてしまうわ。どこかへ、隠してちょうだい!」
そこで小ウサギは、アブラムシをだんろの中に隠してやりました。
そこへメンドリが、ニコニコしながらやって来ました。
「小ウサギさん。ちょうど時間通りよ」
小ウサギは納屋(なや)にトウモロコシとマメがあるから、そこへ荷車を置いて来てひと休みするようにと言いました。
メンドリは言われた通りにしてから、小ウサギに五コロンを渡しました。
それから長イスに腰かけて葉まきタバコをふかしながら、しばらくの間二人で話をしていました。
すると突然、小ウサギが叫びました。
「あっ、大変だ! キツネがこっちへやって来ますよ」
とたんにメンドリは顔色を変えて、ブルブルとふるえ出しました。
それを見て、小ウサギは、
「そのだんろの中に、隠れていらっしゃい。そうすりゃ、見つかりっこありませんから」
と、言って、アブラムシの隠れているだんろの中へメンドリを押し込みました。
だんろの中に入ったメンドリは、そこにいたアブラムシをひとのみにしてしまいました。
小ウサギは外へ出て行って、キツネを迎えました。
荷車はそばの原っぱヘ置いて、まずひと休みするように家の中へ迎え入れました。
キツネが約束の五コロンを渡すと、小ウサギはキツネに向かってしきりにだんろの方を目くばせして見せました。
「おや、だんろに何かあるのかい?」
キツネは、だんろの中をのぞいて見ました。
かわいそうにメンドリは、あっという間にキツネに食い殺されてしまいました。
お腹が大きくなったキツネが気持よさそうに葉まきタバコをふかしていると、小ウサギが叫びました。
「大変だ! オオカミが来ますよ。はやく隠れなさい!」
キツネはあわてて、小ウサギに押されるままにだんろの中にもぐり込みました。
オオカミは荷車をいけがきのところへ置いてから、五コロンを小ウサギに渡しました。
小ウサギはオオカミに向かって、だんろの方を目くばせして見せました。
「おや、だんろに何かあるのかい?」
オオカミは、だんろの中をのぞき込みました。
だんろの中で震えていたキツネは、たちまちオオカミに食べられてしまいました。
キツネを食べたオオカミがいい気持で葉まきタバコをふかしていると、ふいに小ウサギが叫びました。
「大変だ! 狩人が鉄炮を持ってやって来ますよ」
それを聞くと、オオカミはビックリ。
「きっと、おれを撃ちに来たにちがいない。どこか隠れるところはないか?」
小ウサギはオオカミを、だんろの中へ押し込みました。
そこへ、狩人がやって来ました。
小ウサギは、あいそよく、
「よく来てくださいました。まあ、ひと休みして、葉まきタバコでもふかしてください」
と、言って、家の中へさそい入れました。
それから小ウサギは、声を低くして、
「あなたは、オオカミの奴がおきらいでしょう。
だんろの中を狙って、ズドンと一発撃ってごらんなさい。
そうすりゃ、オオカミの奴をやっつけられますよ」
と、ささやきました。
狩人はすぐさま、
ズドン! ズドン!
と、鉄炮を撃ちました。
すると撃ち殺されたオオカミが、だんろから転がり出ました。
それから狩人は小ウサギと一緒におもてへ出ていって、トウモロコシとマメの袋をウマにつみました。
そして小ウサギに五コロンを払って、帰って行きました。
こうして狩人だけが、小ウサギのトウモロコシとマメを買った事になりました。
悪知恵を働かせた小ウサギは、五十リットルのトウモロコシとマメで、二十五コロンをもうけ、おまけに四台の荷車も手に入れました。