お母さんは息子のアンデルスに、赤い糸でボウシを編んであげました。
「少し糸が足りないから、緑の糸を足しましょう」
お母さんは赤い糸が足りなくなったので、ボウシのてっペんには緑の糸で、フサフサとした長いふさをつけました。
これで、とても可愛いボウシの出来上がりです。
アンデルスが、かぶると、
「とても可愛いよ、アンデルス」
「うん。とても良く似合うわ、アンデルス」
と、お兄さんとお姉さんも褒めてくれました。
「みんなに見せてくる!」
アンデルスは、外へ飛び出しました。
すると、友だちのラルスがそばへ来て、
「いいボウシだね。どうだい、ぼくのジャックナイフと取りかえないか?」
と、言いました。
「うんん」
アンデルスは首を横に振ると、駆け出しました。
今度はきれいな服を着た女の人が、アンデルスを見るとスカートをつまんでおじぎをして、
「まあ、素敵なボウシね! あなたも、ご殿のパーティーに行くのでしょう?」
と、聞きました。
そこでアンデルスは、ご殿へ駆けて行きました。
ご殿へ入ろうとすると、番人が、
「こら、子どもは入ってはならん!」
と、アンデルスを追い返そうとしました。
そこへ、王女さまが通りかかって、
「あら、可愛いボウシをかぶった坊やね。いいわ、一緒にいらっしゃい」
と、アンデルスをご殿の大広間に連れて行きました。
大広間にいたお客たちは、
「ほほう! いいボウシだ」
と、褒めてくれました。
王女さまはアンデルスを、ごちそうのいっぱい並んだテ一ブルの前のイスに腰かけさせました。
「さあ、ボウシを脱いで」
王女さまは、ボウシを取ろうとしました。
するとアンデルスは、
「いや、いや!」
と、ボウシを取られるのかと思って、ボウシを両手で押さえました。
「じゃあ、抱っこしてあげるから」
王女さまはアンデルスをひざの上に抱き上げて、ボウシを脱がせようとしました。
けれどもアンデルスは、ボウシを押さえたままです。
「じゃあ、この首飾りをあげるから」
王女さまはアンデルスの首に自分の金の首飾りをかけてから、ボウシを取ろうとしましたが、アンデルスはボウシを脱ごうとはしません。
そこへ、王さまがやって来て、
「坊や、わしの金の冠(かんむり)と、そのボウシを取り替えてはくれんかな?」
と、言って、自分の金の冠をアンデルスの頭にかぶせて、ボウシを取ろうとしました。
「いや、いや! いやです!」
アンデルスは両手でボウシを押さえたまま、ご殿を逃げ出して急いで家へ帰りました。
王女さまが首にかけてくれた首飾りは、どこかへ落としてしまいました。
その夜、アンデルスはご殿での出来事をみんなに話しました。
すると、お兄さんが言いました。
「おしかったなあ。金の首飾りや金の冠があれば、それを売ってボウシなんかいくらでも買えるんだぞ!」
それを聞いたアンデルスは、頬をまっ赤にして、
「違うよ。このボウシがいいんだ! だって、お母さんが編んで下さったボウシだもの! 世界でただ一つのボウシだもの!」
と、言いました。
「まあ、この子ったら」
お母さんは思わず、アンデルスをしっかりと抱きしめました。