そのお百姓さんが病気で死んだので、のこった財産を三人でわけることになりました。
一番上の息子は、
「おれは、家をもらうよ」
と、言って、さっさと家をとってしまいました。
「それなら、おれは家の中のものをもらうよ」
二番目の息子は、家具や道具を全部とりました。
「ぼくは何をもらえるの?」
一番下のぺールが言うと、兄さんたちはわらって言いました。
「そこらをさがせよ。何か見つかるさ」
しかし、何一つ残って残っていません。
ペールは、ようやく部屋のかたすみに、なわを一たば見つけました。
「これだって、何か役に立つさ。じゃあ兄さんたち、さようなら」
ぺールはなわを持って、家をとび出して行きました。
ぺールは湖のほとりにすわって、考えました。
「これから、このなわだけで、どうやってくらそう?」
すると近くの木の枝に、リスがピョンと、とんできました。
それを見たぺールは、いいことを思いつきました。
「そうだ、動物を捕まえよう。皮を売って、お金をもうけるんだ」
ペールはなわで、リスを捕まえました。
「よし、こいつを殺して???。だめだ」
リスのかわいい目を見ると、とても殺す気にはなれません。
そこでペールは木の枝でかごを作って、リスを入れました。
すると今度は、ウサギがとび出してきました。
「ほいきた。これは運がいいぞ」
ウサギも、みごとに捕まえました。
「もっと、獲物はいないかな?」
探していると、岸辺のやぶの中から、
ズシン、ズシン!
と、大きな足音が聞こえてきました。
見ると、大きなくまです。
つけて行くと、くまはほらあなにもぐりこんで、いねむりをはじめました。
「よーし、あのくまも捕まえよう。でもそれには、丈夫なつながいるぞ」
ペールはなわをより合わせて、太いつなを作ることにしました。
ちょうどその時、湖の主の妖怪のネックが、水から頭を出してぺールを見つけました。
ネックはペールの様子を、じっと見ていました。
見ていると、つながどんどん長くなっていきます。
「あの長いものは、いったい何だ? 何に使うのだろう?」
ネックはすみかにもどると、息子をよんで言いました。
「岸辺にいるやつが、何をしているのか聞いてこい」
そこで息子は水面にあがると、ペールに声をかけました。
「おい、何をしてるんだい?」
いきなり声をかけられたので、ペールはびっくりしてしまいました。
目の前に、かわいい子どもが立っています。
(ははあ、こいつは妖怪ネックの子どもだな。それなら用心しないとな)
ネックにはうまい返事をしないと、大変なことになります。
それは、すきを見せると、たちまち水の中へ引きずりこまれてしまうからです。
ちょっと考えたペールは、ネックの子どもに言いました。
「ここの湖をしばる、丈夫なつなを作っているのさ」
「えっ! 湖をしばるの?」
「そうさ。もうすぐ完成するぞ」
おどろいたネックの子は、いそいで父さんネックに知らせました。
「そいつは大変だ。お前、もう一度行って、あいつを木登り競争にさそえ。そしてあいつが疲れたところを、水の中へ引きずり込むんだ」
「うん、わかった」
ネックの子はぺールのところへ行くと、近くの木を指さして言いました。
「おいらと、木登り競争をしないか?」
「今は仕事中でいそがしいから、ぼくのかわりに、小さい弟じゃどうだい?」
「いいとも」
するとぺールは、捕まえていたリスに言いました。
「おい、小さい弟。ぼくのかわりに、木登り競争をしておくれよ。じゃあ、よーい、ドン!」
ペールが手を離すと、リスはあっという間に、木のてっぺんにかけのぼりました。
ネックの子も頑張ったのですが、リスの勝ちです。
負けたネックの子は、しょんぼり帰りました。
すると、父さんネックが言いました。
「木登りがだめなら、今度はかけっこをしろ。あいつが疲れたところを、水の中へ引きずりこめ!」
「うん、わかった」
ネックの子はペールの所へ行くと、森の広場をさして言いました。
「今度は、かけっこをしよう」
「今は仕事中。かわりに、中くらいの弟でもいいかい?」
「いいとも」
ぺールは、つかまえていたウサギに耳うちしました。
「いいかい、逃がしてやるから、つかまらないように一生懸命走れよ」
よーい、どん!
はなされたウサギは、すごいスピードで走っていきました。
ペールの子も頑張ったのですが、ウサギには勝てません。
「父ちゃん、また負けちゃったよ」
「何! また、負けたか。うーん、それなら今度はすもうだ。投げ倒して、そのまま水の中へ引きずりこめ!」
「うん、わかった」
ネックの子はペールの所へ行くと、言いました。
「ねえ、もう一回だけ勝負だ。今度はすもうをしようよ」
「今は仕事中。かわりに、ぼくのおじいさんでもいいかい」
「いいとも」
「おじいさんなら、ほら、あそこでねてるよ。もしおきなかったら、お尻を蹴り飛ばしてもいいよ」
ネックの子は、ほらあなでねているくまのところへ行きました。
「ねえ、すもうをしようよ」
いくら呼んでも、くまはおきません。
そこでくまのお尻を、ポーンと蹴り飛ばしました。
するとくまは怒って、ネックの子を投げ飛ばしました。
投げ飛ばされたネックの子は、泣きながら父さんネックの所へ帰りました。
「あーん、父ちゃん、もうだめだよ。あの子の小さい弟や、年寄りのおじいさんにも負けたんだもの、あの子と何やっても、絶対勝てないよ」
「そうか。それじゃ、どうしたら湖をしばらないでくれるか、丁寧に聞いてこい」
「うん、わかった」
ネックの子は恐る恐る、ぺールのところへやってきました。
「おや、またきたな。まだ何かやる気かい?」
「いいえ、ちがいます。あの、どうしたら湖をこのままにしておいてくれるか、聞きにきたのです」
「そうか。そうだなあ。じゃあ、このぼうしに金貨を一杯くれたら、そっとしといてあげるよ」
「ぼうしに一杯の金貨ですね」
ネックの子はさっそく、金貨をとりに帰っていきました。
「よし、いまのうちに」
ぺールは急いで、地面に深い穴をほりました。
それからぼうしに大きな穴を開けて、地面の穴の上におきました。
しばらくすると、ネックの子が金貨の入った袋を持って、もどってきました。
「では、ぼうしに金貨を入れますね」
チャリーン、チャリーン、チャリーン、チャリーン???。
ネックの子がぼうしに金貨を入れますが、いくら金貨を入れても、ぼうしはいっぱいになりません。
「おかしいな、金貨が足りないぞ」
ネックの子は、何回も金貨の袋をとりにもどりました。
そして、何回もぼうしの中に金貨を入れましたが、でも、ぼうしはいっぱいになりません。
とうとうネックの子は、泣きながら言いました。
「もう、これでかんべんしてよ。金貨はおしまいなんだ」
「そうか。じゃあ、かんべんしてやろう」
こうして大金持ちになったぺールは、いそいで家へ帰りました。
ペールの持っている金貨を見て、二人の兄さんはびっくりです。
「お前、どうやって、こんな大金を手に入れたんだい?」
ぺールは、すまして答えました。
「ほら、このなわで、リスやウサギを捕まえて、それでもうけたのさ」
「ええっ! なわ一本だけでかい? たのむ、そのなわをくれ! 家や家具は全部お前にやるから」
「うん、いいよ」
兄さんたちは、なわを手にすると、喜んで出かけて行き、二度と帰ってはきませんでした。
さて、こうして家と家具と大金を手に入れたぺールは、可愛いお嫁さんをもらって、幸せに暮したということです。