「王女たちよ。おみやげは何がいいかね?」
すると、一番目の王女と二番目の王女が言いました。
「わたしは、絹(きぬ)のドレスがほしいですわ」
「わたしは、真珠(しんじゅ)の首かざりをお願いします」
そして最後に、末の王女が言いました。
「わたしは魔法のほら穴のそばに立つ、木の枝を一つお願いいたします」
魔法のほら穴のそばに立つ木の枝は、魔法の杖(つえ)になるのです。
「では行ってくるから、おみやげを楽しみにしていなさい」
王さまは旅に出かけると、約束通り三人の娘におみやげを持って帰ってきました。
「どうだい、うれしいかね。お前たちはわしがどのくらい好きか、言ってごらん」
「わたしの命と、同じくらい好きですわ。お父さま」
「わたしの宝物より、もっと好きですわ。お父さま」
一番目の王女と二番目の王女は、そう答えました。
そして末の王女は、魔法の木の枝をもらって言いました。
「わたしはお父さまが、塩と同じくらい好きですわ」
それを聞いた王さまは、びっくりです。
「なに、塩だと! このわしを、塩と同じぐらいしか好きでないと言うのだな。そんな娘は、とっとと出て行け!」
「お父さま、わたしにとって塩は」
「うるさい! 出て行け!」
王さまに追い出された末の王女は魔法の木の枝を持つと、泣きながらお城を出て行きました。
追い出された王女が森をトボトボ歩いていると、むこうからヒツジ飼いの娘が来ました。
王女は涙をふきながら、ヒツジ飼いの娘に言いました。
「娘さん。あなたの着ている毛皮とわたしのドレスを、取り替えてくださいな。わたしはお城を追い出されて、自分の力で生きていかなくてはならないの。ドレスは、いらないの」
ヒツジ飼いの娘はおどろきましたが、自分のボロボロ毛皮と王女のドレスを取り替えてあげました。
王女はボロボロの毛皮を着ると、また歩き出しました。
そして途中で馬車(ばしゃ)に乗った人に道を教えてもらい、となりの国へ行きました。
となりの国へ行った王女は、となりの国のお城で働く事にしました。
となりの国の王さまはまだ若く、これからおきさきさまを選ぶためのパーティーを開くところでした。
それを知った王女は、王さまの近くへ行くとわざとぶつかりました。
「これ、気をつけなさい。毛皮の娘よ」
「ごめんなさい」
王女は顔を見せないようにして、あやまりました。
そしてお城を抜け出して自分の小さな部屋に行くと、ボロボロの毛皮を脱いで魔法の木の枝をふりました。
「魔法のつえよ、魔法のつえよ。うす桃色の絹のドレスと、二頭立ての馬車がほしいの」
するとたちまち、はだかだった王女はうす桃色のドレスを着ていました。
そして外には、白い二頭のウマと馬車が待っていました。
王女は馬車に乗ると、お城の広間へ行きました。
うす桃色のドレスを着た王女が現れると、みんなはその美しさに声をあげました。
「なんと、美しい人だ」
「どこの国の王女さまだろうか?」
するとそれに気づいた若い王さまが、王女にダンスをもうしこみました。
王女は羽のようにかるく踊り、咲たての花のような笑顔でほほえみました。
王さまはすぐに、王女のことが好きになりました。
「あなたは、どこの国の王女さまですか?」
「わたしは、毛皮の国の王女です」
王さまは王女に指輪をおくり、明日の晩も必ず来てくれるようにと言いました。
次の夜、王女は青いラシャ(→羊毛で、厚くて密な毛織物)のドレスを着て、四頭立ての馬車で出かけました。
王さまは王女に首飾りをおくり、明日の晩も来てくれるようにたのみました。
次の夜は、王女は黒いドレスで、六頭立ての馬車でお城へ出かけました。
王さまは、王女とダンスをしながら言いました。
「おきさきを決めるパーティーは、今夜でお終いです。なぜならわたしのおきさきが、決まったからです。どうかわたしと、結婚してください」
けれど王女はニコニコ笑うと魔法の木の枝をふり、風のように六頭立ての馬車を走らせて帰ってしまいました。
好きになった王女に逃げられた王さまは、その日から寝込んでしまいました。
王さまが何も食べなくなったので、召使いたちは王さまの体を心配しました。
すると毛皮を着た王女が、料理長にたのみました。
「わたしに、ケーキを作らせてください。わたしのケーキを王さまが一口でも食べたら、きっとお元気になられますわ」
料理長は、
「じゃあ、一度だけだぞ」
と、ケーキの材料をそろえてくれました。
王女は手早くケーキを作り、王さまのもとへとどけてもらいました。
「王さま、ケーキをお持ちしました」
召使いの娘が王さまに言いましたが、王さまはケーキを食べようとはしません。
「王さま、少しでも食べないと、体に悪いですよ」
「???そうだな」
王さまはベッドの上で、王女の作ったケーキにフォークをさしました。
するとケーキの中から、毛皮の国の王女にあげた指輪がコロリと出てきたのです。
王さまは目をかがやかせて、召使いの娘に命じました。
「このケーキを作った者に、もう一度ケーキを作らせよ」
ふたたびケーキを作ることになった王女は、今度はケーキに首飾りを入れておきました。
そしてその首飾りを見つけた王さまが、召使いに言いました。
「間違いない。このケーキを作った者を、ここへ連れてまいれ!」
「しかし。王さま、このケーキを作ったのは、きたない毛皮娘ですよ」
「きたない毛皮娘? そう言えばバーティーの最初の晩、わたしにぶつかったのはボロボロの毛皮を着た娘は。???そうだったのか! それでよい。はやくここへ」
王さまがそう言ったとき、部屋の扉が開きました。
そこに立っていたのは、まっ白なドレスを着た美しい王女です。
王さまは涙を流して喜び、そして家来たちに言いました。
「結婚式だ! すぐに用意しろ!」
若い王さまと王女は結婚することになり、色々な国の王さまたちが結婚式によばれました。
その中には王女のお父さんもいましたが、まさか自分の娘の結婚式とは知りません。
色々な国の王さまたちの前に、料理長がうでをふるったごちそうが並べられました。
色々な国の王さまたちは、
「おいしい、これほどおいしい料理は始めてだ」
と、言って、喜んで食べ始めました。
王女のお父さんも、出されたごちそうを口にはこびました。
しかしそのとたんに、お父さんは変な顔をしました。
「???なんだ、この料理は?」
王女のお父さんが食べた料理には、全然味がしなかったのです。
なぜなら王女が、
「あの王さまのお料理には、塩を絶対に入れないでください」
と、料理長にたのんだからです。
そのうちに王女のお父さんは、自分の料理には塩が入っていないことが分かりました。
すると王女のお父さんは、ボロボロと涙を流しながらとなりの席の王さまに話し出しました。
「わたしの末の王女は、わたしの事を塩と同じくらい好きと言いました。
それを聞いたわたしは怒って、末の王女を追い出してしまいました。
しかし今日、塩の入っていない料理を食べて、塩がどれほど大切な物かを知りました。
そして末の王女が、どれほどわたしを愛していたかも」
そのとき、結婚する王女が近づいて来て、お父さんのほっぺたにキスをしました。
「お父さま、わかっていただけてうれしいですわ」
そして王女は、料理長ににっこり笑ってたのみました。、
「お父さまのために、わたしの作った料理を持ってきてくださいな」
その料理は塩を上手に使った、とてもおいしい料理だったそうです。