その日になると村人たちはえんまさまに、たくさんのおそなえ物をするのです。
そうすれば自分が死んだ時、えんのさまが罪を軽くしてくれて地獄行きにならないかもしれないと思っていたからです。
ところがえんまさまは、大変な欲張りです。
おそなえ物が多い時はきげんが良いのですが、おそなえ物が少ないと口をへの字にまげて文句を言います。
「また、おそなえ物が少ないぞ! けしからん! ケチケチするのは、どこのどいつだ?」
えんまさまは手下の小鬼(こおに)に命令して、誰のおそなえ物が多くて誰のおそなえ物が少ないかを調べるように言いました。
そこで小鬼は、えんまさまのお堂の物かげにかくれて、一日中見張りを続けました。
そして夜になると、えんまさまに報告しました。
「一番おそなえ物が多いのは、やっぱり村一番のお金持ちですよ。
ヒツジやブタを、丸ごとそなえていきました。
それに比べて一番ケチなのは、いつもこのお堂の前を通る百姓(ひゃくしょう)です。
とうふとごはんを、ほんのチョッピリそなえただけです」
「うーむ。あの百姓か。よーし、うんとひどい目にあわせてやるぞ!」
「それなら、あの百姓の作るイネが実らないように、頭がほそくて根っこがふとくなる術をかけてやったらどうです?」
「よかろう。そうすれば秋になっても米がとれずに、泣きべそをかくにちがいない」
こんなえんまさまと小鬼の話を、聞いていた者がいました。
それはお堂に住んでいる、お堂の番人のおじいさんです。
番人のおじいさんはお百姓と仲が良かったので、この話を教えてやりました。
すると、お百姓は笑いながら、
「頭はほそくて、根っこはふとくか。よし、それならイネをつくるのはやめにして、サトイモをつくることにしよう」
と、さっそくサトイモをうえました。
そうとは知らない小鬼は、畑のまわりにきて、
「頭、ヒョロヒョロ、根っこ、ムックリ」
「頭、ヒョロヒョロ、根っこ、ムックリ」
と、畑のサトイモに術をかけました。
すると畑のサトイモはムクムクと大きくなって、いつもの年の何倍もとれたのです。
小鬼はこれを見てびっくり、話しを聞いたえんまさまはに、ひどくしかられました。
「このマヌケめ! 百姓めを喜ばしてどうする!」
「へへーっ! この次はきっと、うまくやります。まんなかをふとく、りょうはしをほそくすれば、イモはちっともとれません。次はこれでやってまいります」
そしてこの話もまた、番人のおじいさんが聞いていました。
番人のおじいさんから話しをきいたお百姓は、今度はトウモロコシをうえました。
そうとは知らない小鬼は、毎日のように畑に来ては、
「りょうはし、ヒョロヒョロ。まんなか、ムックリ」
「りょうはし、ヒョロヒョロ。まんなか、ムックリ」
と、トウモロコシに術をかけました。
するとトウモロコシはムクムクと大きくなって、いつもの年の何十倍もとれたのです。
お百姓はそれを売って、上等な着物を買いました。
これを見て、小鬼たちはビックリ、えんまさまはカンカンです。
「バカモノめが! ようし、こうなったら来年は、てっぺんから、つまさきまで、大木のようにふとくしてやれ」
番人のおじいさんはこの話しを聞くと、またお百姓に知らせてやりました。
「しめたっ。今度はサトウキビをうえよう」
そうとは知らない小鬼は、仲間の小鬼たちと一緒に畑へやってくると、
「上から下まで、ムックリ」
「上から下まで、ムックリ」
と、サトウキビに術をかけました。
おかげでサトウキビはムクムクふとって、たちまち林のようになりました。
お百姓はそのサトウキビを売って、とてもお金持になりました。
これを知ったえんまさまは、小鬼たちのお尻を五十回もぶちました。
小鬼たちは、泣きながら言いました。
「どうか、かんべんしてください。さいごに百姓のうえたものを、頭ムックリ、下をヒョロヒョロにしてやります。今度こそ、やつもこうさんするでしょう」
番人のおじいさんは、これもお百姓に教えてやりました。
するとお百姓は、にっこり笑って、
「じゃあ、今度こそイネをつくるとしようか」
と、畑にイネをうえました。
小鬼たちは、その畑につききりでイネに術をかけました。
「頭、ムックリ、下がヒョロヒョロ」
「頭、ムックリ、下がヒョロヒョロ」
するとイネの穂(ほ)はみるみる大きくなり、ズッシリと重くなりました。
おかげでその年は、たくさんのお米がとれました。
お百姓はそれを売ってますますお金持になり、立派な家をたてました。
もちろん小鬼たちは、今年もえんまさまにひどくしかられました。