女の子といっても大男の子どもですから、それはそれは大きな体をしています。
ある日、女の子は山の下がどうなっているのかを見たくて、一人で山をおりていきました。
森のまわりには広々とした畑がつづき、お百姓さんが馬にすきを引っぱらせて畑をほりかえしていました。
女の子は珍しそうにお百姓さんと馬を見ていましたが、急にしゃがみこむと、大きな手で土ごとお百姓さんと馬をかきよせて、前かけの中へ入れました。
それから大喜びで山をかけのぼり、家へ帰りました。
「おや? 何を持ってきたんだね。そんなうれしそうな顔をして」
テーブルの前にすわっていた、お父さんの大男が言いました。
「うん。とっても珍しいおもちゃを見つけたの。こんなかわいいおもちゃは、はじめてよ」
女の子は前かけの中のものを、土ごとテーブルに出しました。
すると土の中から、すきをつけた馬とお百姓さんが出てきました。
「ねえ、かわいいでしょう。これ、本当に動くんだから」
女の子は小指の先で、お百姓さんの体を押しました。
お百姓さんはびっくりしてかけだしましたが、テーブルのはしまで来て立ちどまりました。
女の子はつづいて、馬にさわりました。
馬もびっくりして、すきをつけたままかけだしました。
お百姓さんは、あわてて馬のたずなをつかんで引きとめました。
それを見て、女の子は手をたたいて喜びました。
「お父さん見て。ほら、行きどまりになって、おどろいているわ」
するとお父さんが、こわい顔で言いました。
「これはおもちゃじゃない。人間というものだ。こうやって畑をたがやして、一生懸命働いているんだよ。人間が働かなかったら、わしらだってパンをつくることができなくなる。さあ、早くもとのところへ返しておいで」
「いやだ! いやだよ! こんなにおもしろいおもちゃを返すのはいやだよ!」
女の子は、大声で泣きました。
でも、お父さんは許してくれません。
「そんなわがままを言うなら、パンを食べさせないぞ」
そこまで言われては、女の子もがまんするよりしかたがありません。
がっかりして、テーブルの上のお百姓さんと馬をつまんで、前かけの中へほうりこみました。
「だめだめ、そんな乱暴な事をしては」
お父さんが、その手をおさえました。
「いいかね。そっと運んで、もとのところへおいてくるのだよ」
女の子は山をくだると、もとの畑へお百姓さんと馬をおき、そのまま山の上へ走っていきました。
「やれやれ、助かった」
お百姓さんと馬は、ほっとして女の子を見送りました。