トリニダードの夕立は、ものすごい勢いで降るのです。
ライオンが家の窓から、ずぶぬれのヤギを見ました。
ライオンはヤギに、
「家に入って、雨やどりをしないか?」
と、声をかけました。
ヤギはありがたい事だと思って、ライオンの家ヘ入りました。
するとライオンは、大声で言いました。
「ヤギくん、座りたまえ。雨やどりの間、ヴァイオリンをひいてあげよう」
ヤギはますますありがたい事だと思って、腰をかけました。
ライオンはヴァイオリンを取り出すと、ひきながら歌い出しました。
?雨の降る日にゃ。
?家にいて、家にいて。
?雨の降る日にゃ、家にいて。
?おいしい肉の、おいでを待つさ。
ヤギは、そのおいしい肉が自分の事だとわかったのでビックリ。
でも、落ち着いて言いました。
「ライオンさん、いいヴァイオリンをお持ちですねえ。わたしにもちょっとひかせてくれませんか?」
「さあ、さあ、どうぞ」
ライオンは上きげんで、ヴァイオリンをかしてくれました。
ヤギはヴァイオリンをかりると、ひきながら歌いました。
?きのう、ころした。一万匹のライオン。
?一万匹のライオン、一万匹のライオン。
?きのう、ころした。一万匹のライオン。
?きょうはなん匹、ころそうか。
今度はライオンが、ビックリしました。
(ヤギがライオンを殺すなんて、本当だろうか?)
ライオンは首をかしげましたが、用心したほうがいいと考えて、大声でおかみさんを呼びました。
「おい、おい、たきぎを取って来い!」
この雨の中をたきぎを取りに行けと言われて、おかみさんはおどろきました。
それでも仕方なく出かけようとすると、ライオンは小さな声で言いました。
「帰って来るなよ」
ヤギは聞こえないふりをしていましたが、今度はもっと大きく早口で歌い出しました。
?きのう、ころした。一万匹のライオン。
?一万匹のライオン、一万匹のライオン。
?きのう、ころした。一万匹のライオン。
?きょうはなん匹、ころそうか。
ライオンは、今度は息子を呼びました。
「森へ行って、おっかさんが何をグズグズしているのか見て来い」
そして小さな声で、つけたしました。
「帰ってくるなよ」
ヤギは、聞こえなかったふりをしていました。
そして、ものすごい大声で、ものすごい早さで歌い続けました。
?きのう、ころした。一万匹のライオン。
?一万匹のライオン、一万匹のライオン。
?きのう、ころした。一万匹のライオン。
?きょうはなん匹、ころそうか。
あんまり早口でわめいたので、ヤギはヘトヘトにくたびれました。
それでもヤギは、歌うのを止めませんでした。
とうとうライオンは、怖くていてもたってもいられなくなりました。
「ヤギくん、失礼。
ちょっと家のやつらを、探しに行って来るよ。
どうぞゆっくり、休んでいてくれたまえ」
と、言うと、ライオンは大急ぎで家から出て行ってしまいました。
ライオンが見えなくなったとたん、ヤギはヴァイオリンを放り出して一目さんに逃げ出しました。
それからというもの、ヤギは決してライオンの家の前の道を通らなかったということです。