三人のうちでも末娘のベルは、とても美しく心が優しいので評判です。
ある時、お父さんが仕事で近くの町ヘ出かける事になると、一番上の姉さんが言いました。
「お月さまの色をした服を、買ってきて」
すると、二番目の姉さんも、
「お日さまの色をした服を、買ってきて」
と、ねだりました。
でもベルは何も言わないので、かわいそうに思ったお父さんが何度も聞くと、
「???バラの花が、一本ほしいわ」
と、答えました。
仕事を終えたお父さんは、姉さんたちの服を買いました。
でもバラの花は、どこにもありません。
おまけに帰る途中、道に迷ってしまったのです。
困っていると、遠くに明かりが見えました。
近づいてみると、とても立派なお城です。
けれどいくらよんでも、お城からは誰も出て来ません。
ふと見ると、庭にきれいなバラの花が咲いています。
「見事なバラだ。これをベルのおみやげにしよう」
お父さんはベルのために、赤いバラをひとえだ折りました。
「何をする!」
そのとたん、目の前におそろしい野獣(やじゅう)の顔をした男が現れました。
「大事なバラをぬすんだな、ゆるさんぞ! いいか、お前の娘を一人ここへ連れて来い。さもないと、命はないと思え!」
と、言って、野獣の男はパッと姿を消しました。
お父さんはふるえながら道を探して、やっとの事で家にたどりつきました。
お父さんが真っ青な顔で野獣の話しをすると、ベルは言いました。
「お父さん、ごめんなさい。わたしがバラをねだったせいです。野獣のところへは、わたしがまいります」
「しかし???」
「いいえ、わたしがまいります」
ベルがいいはるので、お父さんはなくなくベルをお城へ連れて行きました。
するとたちまち、野獣が出てきて、
「この娘は、あずかっておく。お前は帰れ!」
と、お父さんを追い返しました。
ベルはこわくてこわくて、ブルブルとふるえていました。
でも野獣はやさしい声で、ベルに言いました。
「こわがらなくても、いいよ。
この城は、あなたの城。
食べ物も着る物も、欲しい物はみんな一人でに出てくる。
どうぞ、楽しくお暮らしなさい」
野獣は時々、食事をしに来るだけでした。
でも見かけと違って、いつもやさしい野獣にベルはうれしくなりました。
ある日、野獣は遠くの物を見る事が出来る、不思議な鏡をベルにくれました。
ベルがその鏡で自分の家の様子を見てみますと、何と病気で寝ているお父さんの姿がうつっていたのです。
お父さんはベルの事が心配で、病気になってしまったのでした。
「お願い、お父さんのおみまいに行かせてください」
「いいよ。???でも、必ず帰って来ておくれ」
ベルが家に帰ると、お父さんは大喜びで、すぐに病気が治ってしまいました。
けれど姉さんたちに引き止められて、ベルはなかなかお城へ戻れません。
そんなある晩、今にも死にそうな野獣の夢を見ました。
「大変だわ。はやく帰らなければ」
むちゅうで道を走り、やっとお城ヘついた時、野獣はグッタリしてもう口もきけません。
「ごめんなさい、ごめんなさい。わたしが帰らなかったせいなのね。本当にごめんなさい」
ベルは涙を、ポロポロとこぼしました。
そしてその涙が野獣の顔に落ちたとたん、野獣は立派な王子さまに変わったのです。
「ありがとう、ベル。
おかげで、魔法がとけました。
やさしい人がぼくのために泣いてくれなければ、魔法はとけなかったのです。
???ベル、どうかぼくと結婚してください」
「はい」
やがて二人は結婚して、幸せに暮らしました。