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石段に鉄管

时间: 2022-09-01    进入日语论坛
核心提示:秋あきの暮くれ方がたのことであります。貧まずしい母親ははおやが二人ふたりの子供こどもをつれて、街道かいどうを歩あるいて、
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秋あきの暮くれ方がたのことであります。貧まずしい母親ははおやが二人ふたりの子供こどもをつれて、街道かいどうを歩あるいて、町まちの方ほうへきかかっていました。二人ふたりの子供こどもは男おとこの子こでした。上うえが十一ばかり、そして、下したは、まだ八つか、九つになったばかりであります。
彼かれらはどこからきたものか、疲つかれていました。ことに二人ふたりの子供こどもは足あしがくたびれたとみえて、重おもそうに足あしを引ひきずっていました。
兄あにのほうは、それでも我慢がまんをして、先さきになって歩あるいていました。弟おとうとのほうは、母親ははおやのたもとにすがったり、その体からだをまわったりして、ときどき、黙だまって歩あるいている母親ははおやの顔かおを仰あおいで、苦痛くつうを訴うったえるのでした。
「ああ、もうすこしいったら、休やすましてやるよ……。」と、母親ははおやはいいました。
三人にんは、あまり、おそくならないうちに、町まちへはいりたかったのでありましょう。しかし小ちいさな子供こどもは、足あしが痛いたんで、どこででもいいから休やすみたかったのです。
街道かいどうをいくと、傍かたわらに大おおきな屋敷やしきがありました。道みちからすこしく高たかいところに、その家いえは建たてられていたのでした。そして、石段いしだんが通とおり道みちから、そこまでついていました。石いしの上うえは白しろく乾かわいて、しめった黒くろっぽい土つちの面おもてから浮うき出でていました。
「ここへ腰こしかけて、休やすんでいきましょう……。」
哀あわれな母親ははおやは、二人ふたりの子供こどもを見みまわしていいました。そこで母親ははおやを真まん中なかにして、兄あには左ひだりに、弟おとうとは彼女かのじょの右みぎに腰こしをかけたのであります。
みすぼらしい着物きものは、ほこりにまみれていました。秋あきの晩方ばんがたの空気くうきは、ひやひやとして肌はだに迫せまり、木立こだちの葉はは色いろづきはじめて、日ひは、林はやしのあちらに落おちかかっていました。三人にんの前まえには、さびれていく田園でんえんの景色けしきがしみじみとながめられたのです。年上としうえの子供こどもは、黒くろい瞳ひとみをこらして、遠方えんぽうをじっと物思ものおもわしげに見みつめていました。どんなことを頭あたまの中なかに考かんがえていたでしょう? 弟おとうとのほうは、母親ははおやの体からだによりかかって、これとて無心むしんでいました。日ひが暗くらくなった時分じぶんに、どうするかということも……、また今夜こんやは、どんなところに宿やどるだろうということも、また、もうすこしたてば、いまそれほどに感かんじていないひもじさを訴うったえなければならぬということも知しらぬげにみられました。けれど、哀あわれな母親ははおやには、とっくにそれがわかっていて、こうして休やすんでいる瞬間しゅんかんにも、胸むねを苦くるしめているのでありました。
この三人にんは、石段いしだんの下したから二、三段だん上うえのところに並ならんで腰こしをけていましたが、その前まえをいく人通ひとどおりもまれとなったのです。ちょうど、母親ははおやが、切きれかかったぞうりの鼻緒はなおを直なおしていたときです。石段いしだんの上うえから、男おとこが、憎々にくにくしげにどなりました。
「ここは、乞食こじきの休やすみ場ばでない。さあ早はやく、あっちへいくんだ!」
男おとこは、両手りょうてを振ふって、三人にんを追おいやるような手てまねをしました。
二人ふたりの子供こどもは、すぐには、起たてなかったのです。なぜなら、腰こしを下おろすとともに、疲つかれが一時じに襲おそって、小ちいさな足あしは、重おもくて、痛いたかったからでした。母親ははおやは、ぞうりをまだ手てに持もっていました。
「早はやく、うせんか。ここは、おまえがたの休やすみ場ばでないぞ!」
男おとこの権幕けんまくが怖おそろしかったので、三人にんは石段いしだんを離はなれて歩あるき出だしました。兄あには、じっと男おとこの顔かおを振ふり向むいて見みていました。弟おとうとは、石いしの上うえにただ腰こしをかけていることがなんで悪わるいのか? なんでしかられなければならぬのか? それが、不思議ふしぎで、不思議ふしぎでなりませんでした。それで弟おとうとは、振ふり向むいて、いままで自分じぶんたちが腰こしをかけていた石段いしだんのあたりをながめたのです。石いしは白しろく、なんの変化へんかもなく、ぼんやりと乾かわいた色いろのままに浮うき出でていました。
「お母かあ、なんでしかられたんだい。」と、弟おとうとは、うつむいて歩あるいている母親ははおやにたずねました。しかし、母親ははおやの答こたえは、子供こどもの耳みみには聞ききとれないほど、口くちの中なかでその声こえはつぶやいたのでした。
「なんだい、そんな石段いしだん……、減へりはしないじゃないか?」
兄あにのほうの子供こどもは、たまりかねて、十間けんも歩あるいて、こちらへきた時分じぶん、男おとこのいる屋敷やしきの方ほうを見みて叫さけびました。男おとこが、石段いしだんが減へる心配しんぱい以外いがいには、なにも自分じぶんたちをしかる理由りゆうがなく、また、自分じぶんたちはしかられるはずがないと思おもったからです。
母親ははおやは、やはりうつむいて歩あるいていました。二人ふたりの子供こどもは、それから、しばらく黙だまって、おとなしく歩あるいたのです。
あちらに、町まちの灯あかりが、見みえてきました。
もう、日ひは、暮くれてしまって、西にしの空そらには一日にちの余炎よえんもうすれてしまいました。そして、ものの蔭かげや、建物たてものの蔭かげに、闇やみが暈取くまどっていました。水道工事すいどうこうじがあるとみえて、鉄管てっかんが道みちばたに、ところどころ転ころがっています。
三人にんは、うす暗ぐらい、建物たてものの壁かべにそって歩あるいていました。そこの電信柱でんしんばしらの下したにも、長ながい機械きかいのねているように、大おおきな鉄管てっかんが転ころがっていたのです。それは、三人にんが、もたれかかって休やすむのに、ちょうど適当てきとうのものでした。
「ここで、休やすんでいこう……。」と、母親ははおやは、二人ふたりの子供こどもにいいました。
「こんな暗くらいところは、いやだなあ。」と、弟おとうとはいいました。
鉄管てっかんは、ここばかりでない。ずっと町まちの方ほうまで、ところどころこうして置おかれてあるからでした。
「ここで、休やすんでいこう。」と、母親ははおやは、くりかえしていいました。
彼女かのじょは、明あかるい場所ばしょで休やすむと、まただれかにしかられはしないかという不安ふあんがあったからです。そして、この母親ははおやの心持こころもちを年上としうえの子供こどもだけは、悟さとることができるのでした。
「ああ、ここで休やすんでいこうね。」と、年上としうえのほうの子供こどもは、いって、母ははと並ならんで、冷つめたい鉄管てっかんに疲つかれた体からだをもたせかけて、なおもはい上あがって腰こしかけようとしていました。
年下とししたの弟おとうとは、町まちの方ほうにきらきら輝かがやく灯あかりをながめていましたが、
「こんなところは、いやだ。もっと明あかるい方ほうへいって休やすもうよ……。暗くらくて、いやだ。」といいました。
「そんなこといわんで、ここへきて、ちっとばかし休やすみな。」と、母親ははおやは、諭さとすようにいいました。けれど、弟おとうとは、明あかるい方ほうばかし見みていて、母親ははおやのいうことを聞ききませんでした。
「明あかるい方ほうへいって、休やすもうよ……。」
母親ははおやが返事へんじをしなかったので、
「町まちの方ほうへいってから、休やすもうよ……。暗くらいとこはいやだ。明あかるい方ほうへいって、休やすもうよ。」と、小ちいさな子供こどもは、体からだをもだえていいつづけました。
「明あかるいところへいって休やすむと、また、しかられるぞ。」と、兄あにはいいました。
「うそだ……、うそだ! 俺おら、暗くらいとこはいやだ……。」
冷酷れいこくな建物たてものの蔭かげになっている暗くらいところで、しかも冷つめたい鉄管てっかんの周囲まわりで、哀あわれな三つの影かげは、こうしてうごめいているのでありました。
――一九二四・一〇――
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