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あほう鳥の鳴く日(1)

时间: 2022-09-19    进入日语论坛
核心提示: 若者(わかもの)は、小(ちい)さいときから、両親(りょうしん)のもとを離(はな)れました。そして諸所(しょしょ)を流(なが)れ歩(
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 若者(わかもの)は、小(ちい)さいときから、両親(りょうしん)のもとを離(はな)れました。そして諸所(しょしょ)を流(なが)れ歩(ある)いていろいろな生活(せいかつ)を送(おく)っていました。もはや、幾年(いくねん)も自分(じぶん)の生(う)まれた故郷(こきょう)へは帰(かえ)りませんでした。たとえ、それを思(おも)い出(だ)して、なつかしいと思(おも)っても、ただ生活(せいかつ)のまにまに、その日(ひ)その日(ひ)を送(おく)らなければならなかったのであります。
 もう、十七、八になりましたときに、彼(かれ)は、ある南方(なんぽう)の工場(こうじょう)で働(はたら)いていました。しかし、だれでもいつも健康(けんこう)で気持(きも)ちよく、暮(く)らされるものではありません。この若者(わかもの)も病気(びょうき)にかかりました。
 病気(びょうき)にかかって、いままでのように、よく働(はたら)けなくなると、工場(こうじょう)では、この若者(わかもの)に、金(かね)を払(はら)って雇(やと)っておくことを心(こころ)よく思(おも)いませんでした。そしてとうとうある日(ひ)のこと、若者(わかもの)に暇(ひま)をやって工場(こうじょう)から出(だ)してしまったのです。
 べつに、頼(たよ)るところのない若者(わかもの)は、やはり自(みずか)ら、勤(つと)める口(くち)を探(さが)さなければなりませんでした。
 彼(かれ)は、それからというものは毎日(まいにち)、あてもなく、あちらの町(まち)こちらの町(まち)とさまよって、職(しょく)を求(もと)めて歩(ある)いていました。
 空(そら)の色(いろ)のうす紅(あか)い、晩方(ばんがた)のことでありました。彼(かれ)は、疲(つか)れた足(あし)をひきずりながら、町(まち)の中(なか)を歩(ある)いてきますと、あちらに人(ひと)がたかっていました。
 何事(なにごと)があるのだろう? と思(おも)って、若者(わかもの)はその人(ひと)だかりのしているそばにいってみますと、汚(きたな)らしい少年(しょうねん)をみんながとりかこんでいるのであります。
「さあ、赤(あか)い鳥(とり)を呼(よ)んでみせろ。」と、一人(ひとり)がいいますと、また、あちらから、
「さあ、白(しろ)い鳥(とり)を呼(よ)んでみせろ!」とどなりました。
 汚(きたな)らしいふうをした子供(こども)は黙(だま)って立(た)っていました。
「どんな鳥(とり)でも呼(よ)んでみせるなんて、おまえは、うそをつくのだろう? なんで、そんなことがおまえにできてたまるものか!」と、人々(ひとびと)は口々(くちぐち)にいって冷笑(あざわら)いました。
 すると髪(かみ)の毛(け)の伸(の)びた、顔色(かおいろ)の黒(くろ)い、目(め)の落(お)ちくぼんだ子供(こども)は、じろじろとみんなの顔(かお)を見(み)まわしました。
「私(わたし)は、けっして、うそをつきません。山(やま)にいて、いろいろほかの人間(にんげん)のできないことを修業(しゅぎょう)しました。ほんとうに、みなさんが赤(あか)い鳥(とり)が呼(よ)んでほしいならば、どうか、私(わたし)に、今夜(こんや)泊(と)まるだけの金(かね)をください。私(わたし)は、すぐに呼(よ)んでみせましょう。」といいました。
 群衆(ぐんしゅう)の中(なか)には、酒(さけ)に酔(よ)った男(おとこ)がいました。
「ああ、呼(よ)んでみせろ! もし、おまえが呼(よ)んでみせたら、いくらでも、ほしいほどの金(かね)をやるから。」といいました。
 子供(こども)は、うなずいて、空(そら)を仰(あお)ぎました。雲(くも)はちぎれちぎれに高(たか)らかに飛(と)んでいました。そして、日(ひ)がまったく暮(く)れてしまうのには、まだ間(ま)があったのです。
 たちまち、鋭(するど)い口笛(くちぶえ)のひびきが子供(こども)の唇(くちびる)から起(お)こりました。子供(こども)は、指(ゆび)を曲(ま)げてそれを口(くち)にあてると、息(いき)のつづくかぎり、吹(ふ)きならしたのであります。
 このとき、紅(あか)みがかった、西(にし)の空(そら)のかなたから、一点(てん)の黒(くろ)い小(ちい)さな影(かげ)が雲(くも)をかすめて見(み)えました。やがて、その黒(くろ)い点(てん)は、だんだん大(おお)きくなって、みんなの頭(あたま)の上(うえ)の空(そら)に飛(と)んできたのです。そして、あちらの町(まち)の建物(たてもの)の屋根(やね)に止(と)まりました。
 それは、夕暮(ゆうぐ)れ方(がた)の太陽(たいよう)の光(ひかり)に照(て)らされて、いっそう鮮(あざや)かに赤(あか)い毛色(けいろ)の見(み)える、赤(あか)い鳥(とり)でありました。
「さあ、このように赤(あか)い鳥(とり)が飛(と)んでまいりました。」と、子供(こども)はいいました。
「あんな遠(とお)くでは、赤(あか)い鳥(とり)だかなんだかわからない。もっと近(ちか)く、あの鳥(とり)を呼(よ)んでみせろ!」と、酒(さけ)に酔(よ)った男(おとこ)が叫(さけ)びました。
 子供(こども)は、ふたたび高(たか)らかに、口笛(くちぶえ)を吹(ふ)き鳴(な)らしました。すると、赤(あか)い鳥(とり)は、すぐみんなの頭(あたま)の上(うえ)の電信柱(でんしんばしら)にきて止(と)まりました。
「おい、あの鳥(とり)を手(て)に捕(つか)まえてみせろ。」と、このとき、見(み)ていた一人(ひとり)がいいました。
「私(わたし)には、あの鳥(とり)を捕(つか)まえることもできますが、今日(きょう)はそんなことをいたしません。」と、子供(こども)は答(こた)えました。
「なんで、おまえは捕(つか)まえてみせないのだ?」
「私(わたし)は、ただ赤(あか)い鳥(とり)をここへ呼(よ)んだばかりです。」
「捕(つか)まえてみせなければ、金(かね)をやらないぞ。」と、群衆(ぐんしゅう)は口々(くちぐち)に叫(さけ)びました。
「赤(あか)い鳥(とり)を呼(よ)んでみせろというだけの約束(やくそく)であったのです」と、子供(こども)は答(こた)えました。けれどみんなは、口々(くちぐち)に勝手(かって)なことを喚(わめ)いて、承知(しょうち)をしませんでした。
「手(て)に捕(つか)まえてみせなけりゃ、金(かね)をやらない。」と、酒(さけ)に酔(よ)った男(おとこ)もいいました。
「私(わたし)は、お金(かね)はいりません。そのかわり、今夜(こんや)この町(まち)へ、黒(くろ)い鳥(とり)をたくさん呼(よ)んでみせましょう。」と、子供(こども)はいいました。
 黒(くろ)い鳥(とり)という言葉(ことば)は、なにか不吉(ふきつ)なことのように、みんなの耳(みみ)に聞(き)かれたのです。けれど、だれも心(こころ)から、ほんとうに信(しん)ずるものはありませんでした。なんでおまえにそんなことができるものか? この赤(あか)い鳥(とり)の飛(と)んできたのは、偶然(ぐうぜん)だったろうといわぬばかりの顔(かお)つきをして、この汚(きたな)らしい子供(こども)の姿(すがた)を見守(みまも)っていました。
 そのとき、だれか、小石(こいし)を拾(ひろ)って、電信柱(でんしんばしら)の頂(いただき)に止(と)まっている赤(あか)い鳥(とり)を目(め)がけて、投(な)げました。赤(あか)い鳥(とり)は驚(おどろ)いて、雲(くも)をかすめて、ふたたび夕空(ゆうぞら)を先刻(さっき)きた方(ほう)へと、飛(と)んでいってしまいました。
 子供(こども)は、しょんぼりとそこを立(た)ち去(さ)りました。この哀(あわ)れな有(あ)り様(さま)を見(み)た若者(わかもの)は、群衆(ぐんしゅう)を憎(にく)らしく思(おも)いました。自分(じぶん)も困(こま)っていたのですけれど、まだわずかばかりの金(かね)を持(も)っていましたので、その金(かね)の中(なか)から幾分(いくぶん)かを、子供(こども)に恵(めぐ)んでやりました。子供(こども)は、たいそう喜(よろこ)んで幾(いく)たびも礼(れい)をいいました。そして、忘(わす)れまいとするように、じっと若者(わかもの)の顔(かお)を見上(みあ)げていました。
 その晩(ばん)のことであります。空(そら)はいい月夜(つきよ)で、町(まち)の上(うえ)を明(あか)るく昼間(ひるま)のように照(て)らしていました。どこからともなく、口笛(くちぶえ)の声(こえ)が起(お)こりますとたちまちの間(あいだ)に、黒(くろ)い鳥(とり)が、たくさん月(つき)をかすめて、四方(ほう)から飛(と)んできて、町(まち)の家々(いえいえ)の屋根(やね)に止(と)まりました。
 町(まち)の人(ひと)たちは、みんな外(そと)に出(で)て、この黒(くろ)い鳥(とり)をながめました。そして、こんな鳥(とり)が、どこから飛(と)んできたのだろうと怪(あや)しみました。
 しかし、今日(きょう)の暮(く)れ方(がた)、町(まち)で、あの汚(きたな)らしいふうをした、髪(かみ)の毛(け)ののびた子供(こども)が、みんなからからかわれていた有(あ)り様(さま)を見(み)た人(ひと)たちは、あの子供(こども)がだまされたために、復讐(ふくしゅう)をしたのだろうということを知(し)りました。なんという名(な)の鳥(とり)か、だれも、この黒(くろ)い鳥(とり)を知(し)っているものがありませんでした。その鳥(とり)は、からすよりか、形(かたち)が小(ちい)さかったのであります。その鳥(とり)は、黙(だま)っていました。そのうちに、また、一羽(わ)残(のこ)らず夜(よる)のうちに、どこへか飛(と)んでいってしまいました。町(まち)の人(ひと)たちは、なにか悪(わる)いことがなければいいがと、おそれていました。
「あの汚(きたな)らしいふうをした乞食(こじき)の子(こ)は、悪魔(あくま)の子(こ)だ。見(み)つけしだいにひどいめにあわせて、この町(まち)の中(なか)から追(お)い払(はら)ってしまえばいい。」と、ある人々(ひとびと)はいっていました。
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