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一本の釣りざお

时间: 2022-10-17    进入日语论坛
核心提示:一本の釣りざお小川未明一 あるさびしい海岸(かいがん)に、二人(ふたり)の漁師(りょうし)が住(す)んでいました。二人(ふたり)と
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一本の釣りざお

小川未明

一


 あるさびしい海岸(かいがん)に、二人(ふたり)の漁師(りょうし)が住(す)んでいました。二人(ふたり)とも貧(まず)しい生活(せいかつ)をしていましたから、町(まち)や都(みやこ)に住(す)んでいる人々(ひとびと)のように、美(うつく)しい着物(きもの)をきたり、うまいものをたくさん食(た)べたり、また、ぜいたくな暮(く)らしなどをすることは、思(おも)いもよらないことでありました。
 二人(ふたり)は、どうかして、もっといい暮(く)らしをしたいものだと思(おも)いましたけれど、どうすることもできなかったのです。青(あお)い海(うみ)の面(おもて)を見(み)つめながら、二人(ふたり)は、そのような幸福(こうふく)になれる日(ひ)のことばかり考(かんが)えていました。
「いくら考(かんが)えたってしかたがないことだ。俺(おれ)たちは働(はたら)くより途(みち)がないのだ。」と、乙(おつ)は甲(こう)を悟(さと)し、自分(じぶん)を勇気(ゆうき)づけるようにいいました。
「それはそうだが、このうえ俺(おれ)たちは働(はたら)くこともできないじゃないか。」と、甲(こう)は、ため息(いき)をしながら答(こた)えた。
 ほんとうに、二人(ふたり)は、雨(あめ)の降(ふ)る日(ひ)も、また風(かぜ)が吹(ふ)いて、少々(しょうしょう)波(なみ)が高(たか)いような日(ひ)でも、船(ふね)に乗(の)って沖(おき)に出(で)て、網(あみ)を打(う)ったり、魚(さかな)を釣(つ)ったりしたのであります。
 なにごとも二人(ふたり)は、たがいに助(たす)け合(あ)いました。そして、たいていはいっしょに働(はたら)いていたのであります。けれど、人間(にんげん)の運(うん)というものは、まことに不思議(ふしぎ)なものでありました。こうして、同(おな)じ船(ふね)に乗(の)って、同(おな)じく働(はたら)いても、一人(ひとり)に幸(さいわ)い、一人(ひとり)にはなんでもないこともあるものです。

二


 ある春(はる)の日(ひ)のことでありました。陸(おか)には、桜(さくら)の花(はな)の咲(さ)く時分(じぶん)でありました。二人(ふたり)は、北(きた)の青(あお)い海(うみ)の上(うえ)に出(で)て釣(つ)りをしていました。たいがかかる時分(じぶん)でありました。いくら二人(ふたり)は、こうしていっしょうけんめいになってたいを釣(つ)っても、それを自分(じぶん)たちが食(た)べることはできなかった。みんな町(まち)の魚屋(さかなや)に売(う)ってしまって、その金(かね)で家族(かぞく)のものを養(やしな)わなければならなかったのです。
「ほんとうに、俺(おれ)たちは、こうして毎日(まいにち)たいをとっても自分(じぶん)たちの口(くち)に入(い)らないのは、考(かんが)えると、つまらないことだ。今日(きょう)はひとつ自分(じぶん)が料理(りょうり)をして子供(こども)らにたべさせてやろう。」と、甲(こう)がいいました。
「ほんとうに、そうだ。私(わたし)も、家(うち)に帰(かえ)ったら、ひとつ料理(りょうり)をして子供(こども)や妻(つま)に食(た)べさしてやろう。」と、乙(おつ)がいいました。
 その日(ひ)二人(ふたり)は、海(うみ)から働(はたら)いてたがいに家(うち)に帰(かえ)りました。そして、甲(こう)も乙(おつ)も、自分(じぶん)たちのとった大(おお)だいを一尾(ぴき)ずつ料理(りょうり)をしました。すると甲(こう)のほうのたいの腹(はら)から小指(こゆび)の先(さき)ほどの真珠(しんじゅ)が飛(と)び出(だ)したのであります。
「これはたいへんなものが出(で)た。」といって、甲(こう)は喜(よろこ)んでおどりあがりました。そして、家(うち)じゅうのものは大騒(おおさわ)ぎをしました。
 甲(こう)は、さっそく乙(おつ)のところへやってまいりました。それは、乙(おつ)のところのたいからも真珠(しんじゅ)は出(で)なかったかと聞(き)きにきたのであります。すると、乙(おつ)は、甲(こう)のために喜(よろこ)んでいいました。
「甲(こう)さん、そんないいことはめったにあるもんでない。おそらく、あとのたいをみんな腹(はら)を割(わ)ってみたって、もうこのうえ真珠(しんじゅ)が入(はい)っているものでない。これは神(かみ)さまがあなたにお与(あた)えなさったのです。」といいました。
 甲(こう)は、こう聞(き)くといっそう喜(よろこ)んで家(うち)に帰(かえ)りました。

三


 甲(こう)は、これがために思(おも)いもよらない大金(たいきん)が手(て)に入(い)ることになりまして、その翌日(あくるひ)から甲(こう)は、しばらく海(うみ)の上(うえ)に出(で)ることを休(やす)みました。こんなときに、骨休(ほねやす)みをしなければならないといったのです。
 乙(おつ)は、独(ひと)りで海(うみ)の上(うえ)に出(で)てゆきました。雨(あめ)が降(ふ)っても、風(かぜ)が吹(ふ)いても出(で)てゆきました。それを見(み)ると、甲(こう)は、あまりいい気持(きも)ちがしなかったのです。なんだか自分(じぶん)独(ひと)り楽(らく)をしているのが悪(わる)いように思(おも)われたのです。
「乙(おつ)さん、あまりたくさんな金(かね)は融通(ゆうずう)もできないが、すこしくらいならいたしましょう。」と、ある日(ひ)、甲(こう)は乙(おつ)にいいました。
 乙(おつ)は、考(かんが)えていましたが、
「それでは、まことにすまないが、私(わたし)に、さおを買(か)うだけの金(かね)を貸(か)してください。いまのさおでは、思(おも)うように釣(つ)りができないから、もっといいさおが欲(ほ)しいものです。」と答(こた)えた。
 甲(こう)は、内心(ないしん)、いくらいいさおを買(か)っても釣(つ)れるときは釣(つ)れるが、釣(つ)れないときには、やはり釣(つ)れない。すべて人間(にんげん)のことは運(うん)だ、俺(おれ)のようなものだと思(おも)いながら、
「それはお安(やす)いことだ。」といって、わずかばかり金(かね)を貸(か)してくれました。乙(おつ)は、その金(かね)で手(て)ごろのさおを求(もと)めました。

四


 金(かね)が入(はい)ると、甲(こう)は、いままでのようにじっとしていることができませんでした。上等(じょうとう)の網(あみ)を買(か)いました。また、いい着物(きもの)をみんなが買(か)いました。また、町(まち)へ出(で)て見物(けんぶつ)に歩(ある)きました。
「金(かね)がなくなったら、また働(はたら)くばかりだ。」と、甲(こう)はいいました。
 そのうちに、真珠(しんじゅ)を売(う)った金(かね)は、すっかりなくなってしまいました。甲(こう)は、ふたたび乙(おつ)といっしょに海(うみ)の上(うえ)へ出(で)て働(はたら)くことになりました。けれど、昔(むかし)のように、おちついて釣(つ)りをしたり、網(あみ)を打(う)ったりしていることができなかった。魚(さかな)がとれると、かたっぱしから腹(はら)を割(わ)って見(み)ていました。そして、真珠(しんじゅ)をのんでいないと、みんなその魚(さかな)の屍(かばね)を海(うみ)の中(なか)にほうりこんでしまいました。
「甲(こう)さん、なんでそんな乱暴(らんぼう)なことをするんですか。」と、乙(おつ)はびっくりしていいます。
「今度(こんど)、真珠(しんじゅ)を見(み)つけたら、その金(かね)で町(まち)へ出(で)て商売(しょうばい)をするのです。もう、私(わたし)は、魚(さかな)とりなんか問題(もんだい)にしていない。」といって、ところかまわず網(あみ)を打(う)ちました。けれど、もう二度(ど)と真珠(しんじゅ)をのんでいる魚(さかな)はなかったのです。
 甲(こう)は、とうとう自分(じぶん)のおろかなことがわかる日(ひ)がきました。そして、おちついて魚(さかな)をとって、それをばまた町(まち)に売(う)って生活(せいかつ)をしたときには、まったく昔(むかし)にもまさる貧乏(びんぼう)になって、上等(じょうとう)の網(あみ)に破(やぶ)れめができたときです。
 乙(おつ)は、さおを大事(だいじ)にして釣(つ)りをしました。そして、甲(こう)の恩義(おんぎ)を長(なが)く感(かん)じて、甲(こう)の困(こま)ったときは助(たす)けてやりましたので、甲(こう)はいまさらながら、一本(ぽん)の釣(つ)りざおを貴(たっと)く思(おも)ったのであります。

 

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