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谷間のしじゅうから(2)

时间: 2022-11-19    进入日语论坛
核心提示:最後さいごに、彼かれは、この石いしの上うえに下おりて、水みずを飲のみ、岸きしに立たっているかえでの木きと、それにからんだ
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最後さいごに、彼かれは、この石いしの上うえに下おりて、水みずを飲のみ、岸きしに立たっているかえでの木きと、それにからんだむべの木きとを見上みあげたのであります。急流きゅうりゅうが、二本ほんの木きの根ねを洗あらっていました。そして、もし大雨おおあめが降ふって、出水しゅっすいをしたら、彼かれらは、根ねこそぎに、さらわれてしまう運命うんめいにありました。しかし、二本ほんの木きはしっかりと、たがいに根ねを張はって助たすけ合あっていました。しじゅうからは、このようすを見みると、深ふかく同情どうじょうをしたのであります。
「一つ、つぼみがつきましたね。」と、しじゅうからはやさしい調子ちょうしで、むべに向むかって声こえをかけました。
これを聞きいて、かえでの木きは、我わがことのように喜よろこんで、
「今年ことしはじめて咲さくのですよ。きっと、ふじの花はなよりも美うつくしいし、また、ばらの花はなよりも美うつくしいと思おもっています。」といいました。
「たしかにきれいです。そして、大おおきないい実みを結むすんでください。」と、しじゅうからは、答こたえました。
今度こんどは、むべが、友ともだちについて、語かたりました。
「かえでさんのこの若芽わかめは、すてきではありませんか。これが伸のびたら、きっと枝えだぶりがよくなって、このあたりで一番ばんの木きになると、あなたは、お思おもいになりませんか。」といいました。
「たしかに、りっぱな枝えだぶりになります。もし、わるい虫むしがついていたら、私わたしが、取とってあげますよ。」と、しじゅうからが、かえでの木きにいいました。
「よくごしんせつにいってくださいました。だが私わたしたちは、冬ふゆの間あいだ雪ゆきと風かぜにさらされていました。しかもここはいちばん吹雪ふぶきのはげしいところでした。お蔭かげで虫むしの卵たまごは、みんな死しんでしまいました。」と、かえでの木きは、答こたえたが、その言葉ことばには、元気げんきがみちみちていました。むべはまたしなやかなつるを延のばして、あたかも大空おおぞらの太陽たいようをつかもうとするように、きらきらと輝かがやいていました。
この日ひは、遠とおくでやまばとが鳴なき、近ちかくの村むらでは、かっこうとうぐいすが鳴ないていました。
そのときから、三月みつきの日数ひかずがたったのであります。しじゅうからは、むべとかえでのことを思おもい出だして、飛とんできたのでした。すでに谷川たにがわの水みずの飛沫ひまつのかかるこずえは紅葉こうようをして夏なつはいきかけていました。
とちのきも、しらかばの木きも、黙々もくもくとして、やがてやってくる凋落ちょうらくの季節きせつを考かんがえているごとくでありました。あたりの谷たににこだまして、夕暮ゆうぐれを告つげるひぐらしの声こえが、しきりにしています。
「あれから、きれいな花はなが咲さきましたか。そして、りっぱな実みがなりましたか?」と、しじゅうからは、むべに声こえをかけました。むべの木きは、頭あたまを振ふって、
「花はなは、あの後のち、じきに、情無じょうなしの風かぜにもぎとられてしまいました。」と、答こたえました。そして、むべのつるが、しっかりと枯かれた小枝こえだを握にぎっているのを見みて、しじゅうからは、
「それは、なんですか?」と、たずねたのでした。
「これは、あのときのみごとなかえでの若芽わかめです。ある日ひ、大おおきな、かみきりむしが飛とんできてぷつりと切きってしまいました。私わたしは、かわいそうな小枝こえだが、下したの流ながれに落おちてしまわないうちに、急いそいで捕とらえたのでした。いや、あのかわいらしい小枝こえだが、私わたしの手てにすがったのでした。どうして、これが放はなせましょう?」
しじゅうからは、みんなが希望きぼうに燃もえたっていた、過すぎ去さった春はるがいまさらのごとく惜おしまれたのでした。彼かれは、谷風たにかぜに、むべのつるが、空むなしく枯かれ枝えだを握にぎったまま夕空ゆうぞらになびいている姿すがたをながめながら、どうか、このつぎの春はるまでに、むべも、かえでも、もっと太ふとく、強つよくなるようにといって、どこへとなく飛とんでいきました。
 
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