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なつかしまれた人(1)

时间: 2022-11-29    进入日语论坛
核心提示:なつかしまれた人小川未明町まちの運輸会社うんゆがいしゃには、たくさんの人ひとたちが働はたらいていました。その中なかに、勘
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なつかしまれた人

小川未明


町まちの運輸会社うんゆがいしゃには、たくさんの人ひとたちが働はたらいていました。その中なかに、勘太かんたというおじいさんがありました。まことに、人ひとのいいおじいさんであって、だれに対たいしてもしんせつであったのであります。
若わかいものたちがいい争あらそったりしたときは、いつもおじいさんが中なかにはいって仲裁ちゅうさいをしました。
「まあ、すこしのことでそんなに怒おこるものでない。ここに働はたらいているものは、いわば兄弟きょうだいも同おなじことだ。たがいに力ちからになり、助たすけ合あうのがほんとうだのに、争あらそうということはない。すこしくらい腹はらがたつことがあっても忘わすれて、仲なかよくしなければならない。」といいました。
おじいさんに、やさしくいわれると、だれでもなるほどと思おもわずにはいられませんでした。そして、自分じぶんたちのしたことがまちがっていたと気きづくのでありました。
おじいさんは、また仲間なかまが、病気びょうきにでもかかると、しんせつにしてやりました。自分じぶんの家うちを離はなれて、他人たにんの中なかで病気びょうきにかかっては、どんなに心細こころぼそいことだろう、そう思おもって、できるだけしんせつにしてやったのであります。
こうした、おじいさんのしんせつは、みんなに感かんじられたので、いつか自分じぶんの親おやのように思おもったものもあれば、またいちばん親したしい人ひとのごとく考かんがえたものもあったのでした。
「おじいさんの生うまれた国くには、どこですか。」といって、聞きいたものがあります。けれど、おじいさんは、答こたえずに、ただ遠とおい国くにだとばかりいっていました。
また、おじいさんには子供こどもや、身頼みよりのものがいるかしらんと、そのことを聞きいたものもあります。すると、おじいさんは、さびしく笑わらいながら、
「やはり、おまえさんくらいな、いいせがれがあるが……。」と、答こたえたのでした。
そんないいせがれがあるのに、どうして、こんないいおじいさんが旅たびへ出でているのだろう、なぜ親おやと子こがいっしょに暮くらすことができないのか……。おじいさんは、この年としになって、自分じぶんの故郷こきょうを離はなれていたら、さびしかろうと思おもったものもありました。
「おじいさんは、なぜこうして旅たびへなど出でているんですか。」と、若者わかものの中なかの、一人ひとりは、その理由りゆうを知しりたいと思おもって問といました。
おじいさんは、自分じぶんの身みの上うえのことについては、なにを聞きかれても、ただ笑顔えがおを見みせて、あまり語かたらなかったのであるが、
「自分じぶんの手足てあしがきいて、働はたらかれる間あいだは、だれの世話せわにもなりたくないと思おもってな……。子供こどもたちのそばにいて働はたらいたのでは、子供こどもたちが、心配しんぱいすると思おもって、それで旅たびへ出でてきたのだ。」と、いったのでありました。
みんなは、はじめておじいさんの心持こころもちがわかったような気きがしました。子供こどもたちに対たいしても、そうしたやさしい心こころをもつのであるから、自分じぶんたちに対たいしても、やはりこうしてやさしいのであろうと思おもいました。
「じゃ、おじいさんは、いつかまた国くにへ帰かえんなさるときがあるんですね。」
「それはあるにはあるが、そうすると、こうして仲なかよくしているみんなに別わかれなければならぬ。考かんがえると、そのことがつらいのじゃ。」と、おじいさんは、長ながい間あいだ、苦辛くしんをしてきた、日ひにやけて、しわの寄よった顔かおをしゃくるようにして、小ちいさな目めをしばたたいたのです。破やぶれた鳥打帽子とりうちぼうしの下したから見みえる髪かみは、もう灰色はいいろになっていました。
この言葉ことばをきくと、若わかいものたちも、ほっと歎息たんそくをつきました。
「俺おれは、自分じぶんの父親ちちおやのように思おもっているのだが、おじいさんと別わかれるのはつらいな。」と、いったものがあります。
「ほんとうにそうだ。まあ、おじいさん、いつまでも俺おれたちといっしょにいてください。」と、いったものもありました。
こうして、勘太かんたじいさんは、この会社かいしゃに働はたらいている若わかい人ひとたちから、愛あいされていました。
おじいさんは、よく働はたらきました。みんなの間あいだにまじって、いっしょになって重おもい荷にも運はこべば、またかついだりしました。たとえ、年としをとっていても、仕事しごとのうえで、若わかいものに負まけることはなかったが、若わかいものは、なるたけ、この年としをとった、しんせつなおじいさんをいつもいたわっていたのであります。
こうして、働はたらく人々ひとびとの社会しゃかいには、美うつくしい人情にんじょうの流ながれる、明あかるいところがありました。そして、またこうしてしんせつなおじいさんが、だれか一人ひとり、若わかいものの中なかにいなければならなかったのは、ちょうど、人間にんげんの社会しゃかいばかりでなく、他たの獣物けものの集あつまりの中なかでも、経験けいけんに富とんだ、年寄としよりがいて、野原のはらから、野原のはらへ、山やまから、山やまへ旅たびするときには、その年としとったのが道案内みちあんないとなって、みんなが、あとからついてゆくのと同おなじでありました。
勘太かんたじいさんは、毎日まいにち、みんなといっしょに働はたらいていました。しかし、ついに、みんなから別わかれていかなければならぬときがきました。しかも、それは不意ふいであったのです。
おじいさんの息子むすこが、田舎いなかで成功せいこうをして、はるばるおじいさんを迎むかえにきたのでありました。
「おじいさん、長ながい間あいだ、苦労くろうをさせまして申もうしわけがありません。私わたしは、このほど、ようやく仕事しごとのほうが都合つごうよくいくようになりましたから、もうこの後のちおじいさんに苦労くろうをかけることもないと思おもって、迎むかえにまいりました。弟おとうとや、妹いもうとたちは、はやくおじいさんの顔かおを見みたいと待まっていますから、どうかすぐに私わたしといっしょに帰かえってください。」といいました。
おじいさんは、息子むすこの成功せいこうをしたというのを聞きいて、どんなに喜よろこばしく思おもったかしれません。どんなに、久ひさしぶりで、子供こどもや、孫まごたちにあわれるのをうれしく思おもったかしれません。けれど会社かいしゃにいるみんなから、しんせつにされているのを、別わかれて帰かえらなければならぬかと思おもうと、またかぎりなく悲かなしかったのであります。
「それは、まあなによりうれしいことだ。」と、口くちには、いいながら、おじいさんは、自分じぶんの着きている半纒はんてんや、汚よごれて土つちなどのついている股引ももひきを見みながら、すぐに帰かえろうとはいわずにちゅうちょしていました。
息子むすこはもどかしがって、
「おじいさん、さあ早はやく帰かえりましょう。会社かいしゃの汽車きしゃにまにあわせたいものです。なにを考かんがえていなさるのですか。こんなに汚よごれた半纒はんてんや、破やぶれた帽子ぼうしや、土つちのついた股引ももひきなどは、もう用ようがないのですからお脱ぬぎなさい。そして、私わたしがここに持もってきた、新あたらしい着物きものにきかえて、早はやくここを出でかけましょう……。」といいました。
おじいさんは、長ながい間あいだ、自分じぶんの身みにつけていた仕事着しごとぎを未練みれん惜おしそうに脱ぬぎながら、
「せっかくそういって、迎むかえにきてくれたのだから、どうしても帰かえらなければなるまい。俺おれはまだ、もうすこしくらいはここにいて、働はたらいていたいのだけれど……。」と、独ひとり言ごとのようにもらしていました。
おじいさんは、新あたらしい着物きものにきかえて、自分じぶんのいままで身みにつけていた半纒はんてんや、股引ももひきや、破やぶれた帽子ぼうしをひとまとめにして、そばにあった、貨物自動車かもつじどうしゃの荷にの上うえに乗のせておきました。
「さあ、おじいさん、仕度したくがすんだら、すぐに出でかけましょう。」と、息子むすこはいいました。
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