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百姓の夢(2)

时间: 2022-12-07    进入日语论坛
核心提示:百姓しょうは腹はらがすいてくるし、体からだは寒さむくなって、目めをいくら大おおきく開あけても、だんだんあたりは暗くらく、
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百姓しょうは腹はらがすいてくるし、体からだは寒さむくなって、目めをいくら大おおきく開あけても、だんだんあたりは暗くらく、見みえなくなってくるばかりでした。
彼かれは、どうなるかと思おもいました。道みちを迷まよって、小川おがわの中なかにでも落おち込こんだなら、牛うしといっしょに凍こごえ死しんでしまわなければならぬと思おもいました。
百姓しょうは、まったく泣なきたくなりました。ことに、
「ほんとうに、今日きょうこなければよかった。来年らいねんの春はるまで、この牛うしを飼かっておくことに、最初さいしょからきめてしまえばよかった。あの年としとった博労ばくろうのいったのはほんとうのことだ。いま、この寒さむさに向むかって、他人たにんの手てに渡わたすのはかわいそうだ。」
こう思おもうと、百姓しょうは、振ふり向むいて、後うしろから黙だまってついてくる黒くろい牛うしを見みて、かわいそうに思おもいました。牛うしの脊中せなかにも、冷つめたい白しろい雪ゆきがかかっていました。
「来年らいねんの春はるまでは置おいてやるぞ。だが、今夜こんやこの野原のはらでふたりが凍こごえ死じにをしてしまえば、それまでだ。俺おれは、もう、もう一足ひとあしも歩あるけない。おまえは道みちがわかっているのか? たびたびこの道みちを通とおったこともあるから、もしおまえにわかったなら、どうか俺おれを乗のせて、家うちまでつれていってくれないか?」
百姓しょうは、牛うしに頼たのみました。
彼かれは、最後さいごに牛うしの助たすけを借かりるよりほかに、どうすることもできなかったのであります。
牛うしは、百姓しょうを乗のせて、暗くらい道みちをはうように雪ゆきの降ふる中なかを歩あるいていきました。夜よが更ふけてから、牛うしは、我わが家やの門口かどぐちにきて止とまりました。百姓しょうは、はじめて生いきた心地ここちがして、明あかるい暖あたたかな家いえの内うちに入はいることができたのでした。
百姓しょうは、その晩ばん、牛うしにはいつもよりかたくさんにまぐさをやりました。自分じぶんも酒さけを飲のんで、床とこの中なかに入はいって眠ねむりました。
明あくる日ひになると、もう、百姓しょうは、昨夜さくやの苦くるしかったことなどは忘わすれてしまいました。そして、これからもあることだが、ああして道みちに迷まよったときは、なまなか自分じぶんで手綱たづなを引ひかずに、牛うしや馬うまの脊せにまたがって、つれてきてもらうのがなによりりこうなやり方かただと思おもいました。
彼かれは、あのとき、心こころで牛うしに誓ちかったことも、忘わすれてしまいました。そして、どうかして、早はやく年若としわかい牛うしを手てに入いれたいと思おもっていました。
ちょうどその時分じぶん、同おなじ村むらに住すんでいる百姓しょうで、牛うしをいい値ねで売うったという話はなしをききました。町まちへどんどん牛うしが送おくられるので、町まちへきている博労ばくろうが、いい値ねで手当てあたりしだいに買かっているという話はなしを聞きいたのであります。
彼かれは、さっそく、その百姓しょうのところへ出でかけていきました。
「おまえさんの家うしの牛うしは、いくらで売うれたか。」とききました。すると、その百姓しょうは、
「なんでも、大おおきな牛うしほど値ねになるようだから、おまえさんの家うちの牛うしは年としをとっているが、体からだが大おおきいからいい値ねになるだろう。」といいました。
彼かれは、もし自分じぶんの牛うしが売うられていったら、どうなるだろうという牛うしの運命うんめいなどは考かんがえませんでした。ただ、思おもっているよりはいい値ねになりさえすれば、いまのうちに牛うしを売うってしまって、金かねにしておくほうがいいと思おもいました。そして、来年らいねんの春はるになったら、若わかい、いい牛うしを買かえば自分じぶんはもっとしあわせになると思おもいました。
さっそく、彼かれは、町まちへ牛うしを引ひいていって売うることにいたしました。
こうして百姓しょうは、ふたたびぬかるみの道みちを牛うしを引ひいて、町まちの方ほうへといったのです。おそらく、今度こんどばかりは、ふたたび、牛うしはこの家うちに帰かえってくるとは思おもわれませんでした。
百姓しょうは、道みちを歩あるきながら、「あの家うちの牛うしでさえ、それほどに売うれたのだから、あの牛うしよりはずっと大おおきい俺おれの牛うしは、もっといい値ねで売うれるだろう。」と考かんがえていました。
そのとき、牛うしは、何事なにごとも知しらぬふうに、ただ黙だまって、百姓しょうの後うしろから、ついて歩あるいていきました。
町まちへ着つきました。そして、百姓しょうは、博労ばくろうにあって、自分じぶんの牛うしを売うりました。ほんとうに、彼かれが思おもったよりは、もっといい値ねで売うれたのであります。百姓しょうは、金かねを受うけ取とると、長年ながねん苦労くろうを一つにしてきた牛うしが、さびしそうに後あとに残のこされているのを見向みむきもせずに、さっさと出でていってしまいました。
「大おおもうけをしたぞ。」と、彼かれは、こおどりをしました。
百姓しょうは、これが牛うしと一生しょうのお別わかれであることも忘わすれてしまって、なにか子供こどもらに土産みやげを買かっていってやろうと思おもいました。それで、小間物屋こまものやに入はいって、らっぱに、笛ふえにお馬うまに、太鼓たいこを買かいました。二人ふたりの子供こどもらに、二つずつ分わけてやろうと思おもったのであえいます。
この日ひも、また寒さむい日ひでありました。百姓しょうは、たびたび入はいった居酒屋いざかやの前まえを通とおりかかると、つい金かねを持もっているので、一杯ぱいやろうという気持きもちになりました。
彼かれは、居酒屋いざかやののれんをくぐって、ベンチに腰こしをかけました。そして、そこにきあわしている人ひとたちを相手あいてにしながら酒さけを飲のみました。しまいには、舌したが自由じゆうにまわらないほど、酔よってしまいました。
戸との外そとを寒さむい風かぜが吹ふいていました。いつのまにか日ひは暮くれてしまったのであります。
「今日きょうは、牛うしを引ひいていないから世話せわがない。俺おれ一人ひとりだから、のろのろ歩あるく必要ひつようはない。いくらでも早はやく歩あるいてみせる。三里りや四里りの道みちは、一走ひとはしりに走はしってみせる。」と、自分じぶんで元気げんきをつけては、早はやく帰かえらなければならぬことも忘わすれて、酒さけを飲のんでいました。
彼かれは、燈火あかりがついたのでびっくりしました。しかし酔よっているので、あくまでおちついて、すこしもあわてませんでした。
やっと、彼かれは、その居酒屋いざかやから外そとに出でました。ふらふらと歩あるいて、町まちを出ではずれてから、さみしい田舎道いなかみちの方ほうへと歩あるいていきました。
牛うしを売うってしまって、百姓しょうは、まったく身軽みがるでありました。しかし、いままでは、たとえ彼かれが道みちでないところをいこうとしても、牛うしは怪あやしんで、立たち止どまったまま歩あるきませんでした。いまは、彼かれが道みちを迷まよっても、それを教おしえてくれるものはなかったのであります。
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