花はな咲さく (群馬県片品村)
ヤマトタケル伝説、「石に花が咲く」
「花咲」と書いて「はなさく」と読み、その字のごとく、まさに「花が咲く」ことが、こ
の地名の由来だという。
ただ、花ならどこの地に咲いても不思議はないのだが、ここ片かた品しな村には、「石
に花が咲いた」という伝説がある。これは日本神話に基づくもので、ヤマトタケルの東征
のときの話である。
ヤマトタケルが当地を訪れたとき、近くの山に悪お勢ぜと呼ばれる魔力をもつ神がすみ
つき、悪事をはたらいてはその地の村人を困らせていた。
そして、ヤマトタケルがこれを成敗したところ、悪勢の娘も自害して果てた。彼女の従
者はこれを悲しみ、あとを追うように死んでしまうと、その魂が石となって残った。花が
咲いたと伝えられるのはその石である。
ところが、これには後日談があり、石に悪勢の悪霊がとりついたのか、その後も村は、
疫病がはやるなどの不幸に襲われる。そこで、石を供養し、花咲明神として祀ると、村に
は穏やかな暮らしが戻ってきた。以来、この石を「花咲石」、土地を「花咲村」と呼ぶよ
うになったという。
これは、江戸時代に書かれた地誌『上こう野ずけ志』が伝えている物語だ。
なお、現在その花咲石は、片品村の登のぼつ戸とという集落の一隅に、石と同じくらい
の高さの鳥居で守られ、苔むしながらも現存しているという。