幸福(こうふく) (北海道帯広市)
アイヌ語の地名と開拓者の出身地が融合して生まれた
旧国鉄時代に、「愛の国から幸福へ」というキャッチコピーとともに人気を集めたのが、北海道帯おび広ひろ市にある幸福駅だった。同一路線内に二駅だけ離れて結ばれた幸福駅と愛国駅の名前が注目され、記念切符の購入者が駅を訪れたほか、日本全国から購入申し込みの手紙が殺到したのである。
いかにも苦労知らずのような地名ではあるが、その由来には涙が込められているといってもいい。
「幸福」の本来の地名は、「幸震」と書いて「こうしん」と読ませるものである。先住民族であるアイヌ民族によって命名された「サツナイ」という地名に、明治維新後、和人の文字である幸震の漢字をあてて音読みしていたものだ。
ちなみにサツナイとは、アイヌ語で「乾いた川」という意味になるのだそうだ。
その地に開拓者として入植したのが、福井県出身の人たちだった。戊ぼ辰しん戦争で奥羽越列藩同盟として戦った藩には、冷遇されたり新政府の政策についていけなかったりして北海道開拓に参加した人がいた。もしかすると、福井出身者のなかに、そんな人もいたかもしれない。
開拓した自分たちの土地に、もともとの幸震から「幸」の一字、故郷・福井の「福」の字を取って合わせ、「幸福」という新しい地名を付けた。厳しい環境のなかでの労働の結果で得た、懐かしいふるさとにつながる名ともいえるだろうか……。
現在、幸福駅のあった路線は廃線となっているものの、駅跡は公園となり、切符など幸福グッズの売り場もある。相棒だった愛国駅では交通記念館として蒸気機関車が保管され、用具類なども展示されている。