あれから二十年余りが経ち、とうとうその日がやってきた。父に会わせたい人がいると話したのは1か月前だった。それから1か月間は、その件に全然関係のない世間話しかせず、彼に関する情報は母を通してしか伝えることができなかった。
そして、その日、彼が家にやってきた。父は居間にいて、床に置いた新聞を読むふりをし、うつむいたままで、ただ「いらっしゃい」と言った。
彼はアフリカ人だ。父に反対されるのは分かっている。世間からも反対されるだろう。それを承知の上で結婚したいと思った。しかし、そういうことを腹を割って話すのは、照れくさくてできなかった。父もそうだったと思う。
彼が家に来て1時間ほど経って、父がやっと彼のいる食卓にやってきた。ウイスキーの瓶がまるまる一本空いていた。へべれけになった父が、勢いに任せて彼に言った。「話を聞いてから、1か月ずっとまともに寝れなかったんだぞ。小さい頃から俺がどれだけ大切に育ててきたか分かってるのか。こいつを泣かせたらただじゃおかないぞ。その覚悟はあるのか。」
彼は日本語があまり分からなかったが、その迫力から、なんとなく言ったことは分かったようだった。そして、約束した。「○○○さんを幸せにします」と。そして、父は「もう寝る。」と言って、寝室に行って寝てしまった。
後日、母から聞いた話では、娘の彼が家に来るというだけでもつらいのに、ましてや外国人、ましてはアフリカ人で、相当辛かったという。父にとって最悪の日。それは、私が父の愛情を最も感じた日だった。