「今日のお弁当、楽しみにしててね」
父がにやけた顔でお弁当を渡してくれる。そんな日はいつもお弁当を開けるのをドキドキしてしまう。海苔でひろこと書いてあったり、女の子の顔が描いてあったり、スキと書いてあったり、父のにやけ顔を思い出し、ちょっぴり恥ずかしながらお弁当を食べていたことを思い出す。4年前に母が他界し、父は一人になった。あれだけ料理の好きだった父は料理をしなくなった。
「一人の食卓は寂しいな」
そんな言葉が返ってきた。私はどうにか父に元気をあげたいなと考えた。大きかった父の背中はだんだんと小さくなっていくように思えて寂しかった。
ある日帰省した時に
「今日の晩御飯は外食じゃなくて、家で作ろうよ」
「いいね」
久しぶりの父の笑顔は輝いていた。父と娘でキッチンに立つ。
「きゅうりはね、こうやって切った方が早いんだぞ」
「そうなんだ!知らなかった」
初めておふくろの味ならぬおやじの味を教えてもらっているようで私も胸がいっぱいになった。
「この出汁は、この白醤油が合うよ。これがお父さん流なんだ」
好きなことをしている父はとてもキラキラしていた。私は昔お弁当を渡してくれた父のあの笑顔を思い出した。最近は帰省するときの楽しみはもっぱら料理になっている。
「今度行くときはお父さんの、けんちん汁の作り方教えてね」
なんてリクエストしておくと準備万端になっている。一人で作るより、二人で作った方が楽しくて、一人で食べるより、みんなで食べた方が楽しいね。父と娘の異色のタッグはこれからどんどん美味しい味を生み出すよ。そして、幼稚園に通い始めた娘に私は父直伝のお弁当を作る。
「今日はね、ハートの形だったね」
娘も毎日お弁当を楽しみにしてくれている。それはね、おじいちゃんに教えてもらったお弁当なんだよ。美味しい上に楽しくて、ワクワクして、そして心が温かくなるお弁当。たくさんの愛情が入っているからね。これからもこの愛とお弁当を繋げていくね。そして我が家の秘伝のレシピはこのお弁当だってことも。