春先、近くの小学校のそばを歩いていたら、新入生らしくピカピカのランドセルを背負った自動が②人、向うからやってきた。私の顔を見すえて、一人が出しぬけに、「センセイ、サヨウナラ」と晴れ晴れした声で叫んだ。もう一人も、つられるように、「センセイ、サヨウナラ」と、いくらか小さな声で言って通った。まったく知らない子たちである。びっくりしていると、背後からかわいい声で、「センセイだよな」「コウチョウセンセイかもしれないよ」と話していくのが聞こえるから、いっそう驚いた。
校長先生という見立ては残念ながらはずれているが、「センセイ」というのはみごと的中である。子供の直観たいしたものがと舌を巻いた。それと同時に、縁もゆかりもない小学生にも教師と見破られて、いささか複雑な気持ちでもあった。
その後、何度も同じようなことを繰り返して、よほど今教師然としているのだろう。ひょっとするとわが教師業の全盛期かもしれないと思ったりしたこともある。いまでも、ゆぎすりの小学生がこちらを正視すると、あいさつするのではあるまいかと、うっすら不安を覚える。②0年前の後遺症である。
どうしたことか近年は、知らない小学生から先生扱いされることがなくなった。やっと教師の顔を卒業できたのか、と思っていた。
先日、あるところで雑談していたら、中の一人が、最近は先生にあいさつするのは幼稚園児ぐらい。学校にそういう躾はなくなったね、と言った。
そうであったのか。それなら、こちらが、いくら教師然とした顔をしていても、子供は反応しないわけである。
1、「まったく知らない子たち」からあいさつをされたのはどうしてか。
①ピカピカのランドセルを背負った新入生だったから。
②筆者が勤めている学校の生徒だったから。
③その子たちから見て筆者が先生らしく見えたから。
④子供たちは知らない人にもあいさつをするようにしつけられているから。
2、「②0年前の後遺症」とはどういうことか。
①教師業の全盛期がいつ終わってしまうのか不安を感じる。
②何人もの小学生に一斉に見られるのがこわい。
③関係のない小学生に校長センセイだと間違われるのがいやだ。
④知らない小学生と目が合うと、先生と思われ、あいさつをされそうな気がする。
3、「近年は、知らない小学生から先生扱いされることがなくなった」のはどうしてか。
①教師業の全盛期が終わってしまったから。
②やっと教師の顔を卒業することができたから。
③最近は学校であいさつをするように教えなくなったから。
④近年は幼稚園児からあいさつをされるようになったから。