ドイツでの滞在が長くなるにつれて、私は同じ資本主義国でも、日本とはもっと違った豊かさが、この国にあることが分かってきた。ある朝、森を通って仕事に出かけたとき、休暇をとった中年の男性が、森の中の籐椅子に寝転んで、ただじっとしているのに出会った。夕方、帰りにその森を通ると、同じ人が同じようにじっとしている。なんとなくおかしくて私は声をかけてみた。
「あなたは一日中そこで何をしているのですか?」その答えは次の通りだった。
「人間は能動的に、仕事をしているときも、得るものがある。しかし、一生懸命に何かをしているときは、周りにあるものは目に入らない。こうして何もしていないと、小鳥の声、風のそよぎ、落葉の音、陽の光、そういうものが聞こえ、見えてくる。私はこうして時々自然と対話をし、イメージをいっぱいにして都市に戻るのです。
何かをすると同時に、何もしないことの価値が認められているのも、また豊かではないか。
1、筆者の言う「何もしないことの価値」と関係の深いものはどれか。
①自然を大切にする心
②都市での生活
③精神的なゆとり
④経済的な豊かさ