少年の脳の損傷具合はかなりひどいものだったので、医師は両親にその旨を告げ、たとえ手術がうまくいっても植物人間になることは免れないと宣告。①その上で手術をしたわけが、リハビリの段階で少年に対してできるかぎりの愛情を注ぐことを、両親に進めたらしい。たとえ寝たきりで反応がなくても、一日じゅう手や足をさすってやり、優しく励ましてやるようにと指示したのである。両親は愚直なまでにこの指示を守り、来る日も少年の手足をさすり、励まし続けたという。(②)、本来なら障害が起きてしかるべきであるはずの少年の脳は活発に働き始め、植物人間どころか、退院の日にはジョギングをしても大丈夫なほど回復したのだそうである。
「少年の退院の日は、③まさに感動的でありました」
と教授は瞳を潤ませながら語っていたが、この実例から彼が引き出した結論(というか未だ仮定なのかもしれないが)は、人間の脳は誰かに受け入れられるという前提のもとに、活発に働くということであった。受け入れられるというのはどういうことかというと、これはとりもなおさず愛されるということである。ようするに愛し、愛されるという刺激がなければ、人間の脳は活発に働かないし、創造性も高まらないのである。
(注1)活性化する:刺激を与えて、働きを活発にする
(注2)その旨:その内容
(注3)リハビリ:体が不自由になった人が社会生活にもどれるようにする訓練
(注4)愚直なまでに:愚かだと思われるほどまじめに
「問い」①「その上で手術をした」とはどういうことか。
1 命は助かるがジョギングできるほど回復はしないと言ってから手術をした。
2 脳の損傷がひどいので、助かる見込みはないと言ってから手術をした。
3 命は助かっても寝たきりで反応がなくなることを伝えてから手術をした。
4 脳の損傷はひどいが、手術をすれば元どおりになると約束して手術をした。
「問い」(②)に入る最も適当な言葉はどれか。
1 その場合
2 そのかわり
3 そのとき
4 その結果
「問い」③「まさに感動的でありました」とあるが、何が感動的なのか。
1 退院の日に少年がジョギングをしながら帰ったこと
2 手術を担当した教授が話しながら瞳を潤ませたこと
3 ひどいけがだったのに手術により障害が防げたこと
4 親の励ましによって少年が予想以上に回復したこと