昔 から、出雲いずもの神様かみさまは、縁結えんむすびの神様かみさま [1] で有名ゆうめ
いでした。
出雲いずもの神様かみさまは、毎日毎日まいにちまいにち、朝あさから晩ばんまで何千
組なんぜんくみもの縁結えんむすびをしているのです。そして朝あさのうちは、「う
む、あそこの息子むすこは性格せいかくが良よいから、ここの娘むすめがいいだろう。
あの息子むすこは金持かねもちだから、反対はんたいにこの貧乏びんぼうな家いえの娘
むすめと」と、あれこれ考かんがえながら縁結えんむすびをするのですが、それが昼頃
ひるごろになると、「この息子むすこは、この娘むすめ。あの娘むすめは、この息子む
すこ」と、少すこしいい加減かげんになり、やがて夕方ゆうがたになると、「あれとこ
れ。これとあれ」と、適当てきとうになってしまうのです。こうして朝あさのうちに縁
結えんむすびされた夫婦ふうふは、末永すえながく幸しあわせに暮くらすのですが、夕
方ゆうがたに縁結えんむすびされた夫婦ふうふは、不幸ふこうな結果けっかとなってし
まうのです。
ところで縁結えんむすびの神様かみさまにも娘むすめがいて、今年ことしで三十歳さん
じゅうさいにもなるのですが、どこからも嫁よめに欲ほしいと声こえがかかりません [2]
。そこで娘むすめは、父親ちちおやに腹はらを立たてて言いいました。「お父とうさ
ん。他人たにんの事ことよりも実じつの娘むすめの方ほうが大事だいじじゃないの!あ
たしもいい年とし [3] よ。早はやくあたしの相手あいてを決きめて下ください!」すると
縁結えんむすびの神様かみさまは、気きまずそうに言いいました。「う、う―ん。実じ
つはな、もう、とっくに決きまっていたのじゃ。じゃが、つい夕方ゆうがたに決きめて
しまい。あまりにも不似合ふにあいな縁えんになってしまったのじゃ。それで、今いま
まで、言いいそびれて [4] …」
「お父とうさんが不似合ふにあいだと思おもっても、お嫁よめに行いくのはあたしで
す!さあ、どこの誰だれが相手あいてなのか、教おしえて下ください!」「う、うー
ん。それなら言いうが、実じつは遠とおい播磨はりまの国くに(兵庫県ひょうごけん)
の山奥やまおくで炭焼すみやきをしておる、ひどく貧乏びんぼうな男おとこじゃ。」
「分わかりました。あたしは、もうこれ以上いじょう、待まつ気きはありません。どん
なに遠とおくても、どんなに貧乏びんぼうでもいいから、今いますぐ、その人ひとのと
ころへ行いきます!」娘むすめはそう言いうと旅たびの用意よういをして、旦那だんな
さんのいる山奥やまおくへと出でかけました。
そして何日なんにちも旅たびをして、ついに旦那だんなさんになる炭焼すみやきの男お
とこを見みつけると、こう言いいました。「あたしは、あなたの嫁よめになる者もので
す。今日きょうから、ここに置おいてもらいます。」それを聞きいた炭焼すみやきの男
おとこは、びっくりです。「いきなりそんな事ことを言いわれても、おれは知しらん
ぞ。第一 だいいち、おれは貧乏 びんぼうで、嫁 よめをもらうどころではない 。それ
に、お前まえさんみたいな綺麗きれいな人ひとは、もっと良よい家いえに行いくべき
じゃ。」
「いいえ、あなたが何なんと言いおうと、これは父ちち、…縁結えんむすびの神様かみ
さまが決きめた事ことです。では、ここに荷物にもつを置おかせてもらいます。」「そ
んな事ことを言いわれても…」炭焼やきの男おとこは反対はんたいしましたが、娘むす
めは強引ごういんに嫁よめとなって住すみ着ついてしまいました。
さて、もともと貧乏びんぼうな家いえに二人ふたりが暮くらす事ことになったので、家
いえの米こめはたちまちなくなってしまいました。米こめびつ [5] をひっくり返かえして
も、一粒ひとつぶの米こめも残のこっていません。「あなた、お米こめがなくなりまし
た。どうしましょう?」嫁よめが言いうと、男おとこは困こまった顔かおで言いいまし
た。「米こめは、いつも炭すみと取とり替かえておるんじゃ。今焼いまやいている炭す
みが焼やき上あがるまで、我慢がまんするしかないのだが、炭すみが焼やき上あがるま
で、まだまだ時間じかんがかかるし。」
すると娘むすめは、持もってきた嫁入よめいり道具どうぐの中なかから金きんの粒つぶ
を出だして言いいました。「それなら、これでお米こめを買かってきて下ください。」
「なんじゃ?こんな物もので、米こめと換かえてくれるのか?」今 いままで、お金 かね
を見 みた事 ことがない男 おとこには、不思議 ふしぎでなりません 。
けれど嫁よめが言いうのなら間違まちがいないだろうと、男おとこはその金きんの粒つ
ぶを持もって山やまを下おりていきました。そして町まちへ出でる途中とちゅうの丸木
橋まるきばしで、男おとこは金きんの小粒こつぶを一粒落ひとつぶおとしてしまったの
です。「あっ、しまった。」男おとこが川かわを覗のぞいてみると、金きんの小粒こつ
ぶをエサと間違まちがえた小魚こざかなが、金きんの小粒こつぶを突つつき始はじめま
した。「こりゃ、面白おもしろい。」男おとこは楽たのしくなって、持もってきた金き
んの小粒こつぶを次々つぎつぎとばら撒まき [6] 始はじめました。
そして、手てぶらで戻もどってきた男おとこに、嫁よめが尋たずねました。「あら?あ
なた、お米こめはどうしました?」「うん、実じつはお前まえのくれた粒つぶは、みん
な橋はしの下したの魚さかなにくれてやったんだ。」「まあ、なんともったいない!あ
れがあれば、何なんでも買かえるのに。」嫁よめが呆あきれていると、男おとこは、
「それはすまんかった。しかし、あんな物ものでよければ、炭焼すみやき窯がまの横よ
こに、なんぼでもあるから、明日取あしたとってきてやろう。」と、言いうのです。
次つぎの日、嫁よめが男おとこについて炭焼すみやき窯がまに行いってみると、何なん
と炭焼すみやき窯がまの横よこは金山きんざんで、あちこちに金きんの塊かたまりがゴ
ロゴロ転ころがっているのです。嫁よめは、びっくりして言いいました。「あなた。こ
れだけあれば、もう、炭焼すみやきで貧乏びんぼうをする事ことはありません。これか
らは、幸しあわせに暮くらしましょう。」こうして二人ふたりは、それから末永すえな
がく幸しあわせに暮くらしたのです。
縁結えんむすびの神様かみさまが決きめた縁談えんだんは、決して間違まちがえはあり
ません。例たとえ夕方ゆうがたに決きめられた縁談えんだんでも、夫婦ふうふで力ちか
らを合あわせれば、必かならず幸しあわせになれるのです。
[1] 「縁結びの神様」,名词。月下老人。
[2] 「声がかかる」,发出喝彩声。
[3] 「いい年」,名词。一定的年龄、适婚年龄。
[4] 「言いそびれる」,动词。未得说出。
[5] 「米びつ」,名词。米箱,米柜。
[6] 「ばら撒く」,动词。撒播,散发。
从 很久以前,出云大神就是有名的月下老人。
出云大神从早到忙到晚,每天要安排成百上千的姻缘。因此,每天清早的时候,出云大神
会认真地考虑:“这家的儿子性格很好,配那家的姑娘应该很合适吧。那家的儿子有钱,最
好配这个穷人家的女儿吧。”到了中午,就变得随意起来:“这家儿子配那家姑娘,这家姑
娘配那家儿子。”然而到了傍晚,就干脆“这个配那个,那个配这个。”开始随便地安排。于
是,经出云大神清早结缘的夫妇,都能白头到老,一直过着幸福的生活,而傍晚结缘的夫
妇,都会有不好的结果。
话说月下老人自己也有一个女儿,今年已经三十岁了,却没有人提出要娶她为妻。于是,
女儿向父亲抱怨道:“爸爸,你亲生女儿的事情,难道不比别人的事情重要吗?我年纪也不
小了,请你快点帮我物色对象吧。”于是,月下老人心怀愧疚地说:“其实啊,我早就帮你
选了丈夫了。只是,不巧是在傍晚选的,不是什么好姻缘,所以就一直没敢告诉你……”
女儿大声说:“就算爸爸你觉得不好,可最终出嫁的人是我啊。快点告诉我他到底是谁,他
在哪里?”月下老人只好说:“好吧,好吧。既然是这样,就告诉你吧。他是在遥远的播磨
国(兵库县)的深山里烧制木炭的,非常穷的一个男人。”“我明白了。我不想再等了。不
管有多远,不管他多穷,我现在就去他那里。”说完,女儿就收拾好行李,往丈夫住的深山
出发了。
就这样过了好多天,这位姑娘终于来到了即将成为她丈夫的烧炭工的家。她对烧炭工
说:“我就是那个即将成为你妻子的女人。从今往后,就让我住在这里吧。”烧炭工听到这
话,吓了一跳。他对姑娘说:“你突然跟我说这些,我也不知道该怎么办啊。首先,我很
穷,根本顾不上娶老婆。而且,像你这么漂亮的人,应该嫁到更好的人家才是啊。”
姑娘却说:“不用说了,不管你说什么,这都是父亲……月下老人决定了的事情。那么,请
允许我把行李放在这里吧。”尽管烧炭工极力反对,姑娘还是强行住到他家,成为了他的妻
子。
这样一来,本来就穷的家里,一下子变成两个人吃饭,家里的米很快就吃得一粒都不剩
了。妻子问丈夫:“老公,家里没有米了,这可怎么办啊?”丈夫愁容满面地说:“家里的米
都是拿木炭换来的。在新炭做好之前,我们只能忍一忍了。可是,新炭还要很久才能烧好
啊。”
正说着,只见妻子从嫁妆里拿出一袋金粒,对丈夫说:“这样的话,就拿这袋金粒去买米
吧。”丈夫从没见过金子,他将信将疑地说:“你说什么?这个就能买到米?”
但是他想,既然妻子这么说,想必是没有错的。于是,他带着金子下山去了。在去往市镇
的途中,他经过丸木桥的时候,不小心掉下了一粒金粒。“唉呀,糟糕!”他叫了一声,朝
河里看去,只见河里的小鱼以为是吃的东西,都争先恐后地涌过来抢金粒。“真好玩
啊!”丈夫开心极了,一边说着,一边往河里撒金粒。
妻子见到两手空空回到家的丈夫,觉得很奇怪,就问他:“咦,米呢?”丈夫说:“我把金粒
都喂了桥下的鱼儿了。”“啊?你太浪费了!有了那些金粒,我们就什么都买得起啦。”看到
妻子吃惊的样子,丈夫满脸委屈地说:“对不起,我不该把你给我的东西拿去喂鱼。可是,
如果那东西有用的话,我炭窑的旁边有的是啊!我明天就去拿来给你。”
第二天,妻子跟着丈夫来到炭窑。只见炭窑旁边竟然是一个金矿,到处都是“咕噜咕噜”地
滚来滚去的金块。妻子喜出望外地对丈夫说:“老公,有了这些,我们再也不用烧炭过穷日
子啦。从今往后,我们可以幸福地生活了。”就这样,两人从此过上了长长久久的幸福生
活。
月下老人牵下的姻缘绝对没有错。即使是傍晚安排的姻缘,只要夫妇同心合力,就一定能
过上幸福美满的日子。
语法详解
(1)名詞/動詞の連体形+どころではない
表示举出极端的事例并加以否定,言外之意即暗示一般的事情就别提了。
相当于“根本就谈不上……”“根本就顾不上……”
* 春だというのに、お花見どころではなく、夜遅くまで仕事をしている。
虽说是春天,但根本顾不上去赏花,晚上工作到很晚。
* 宿題が山ほどたまっていて、遊びに行くどころではないんです。
作业多得跟山似的,哪有功夫去玩呀。
(2)形容動詞語幹で/用言の連用形+てならない
表示心情或身体处于难以抑制的状态。多用于书面语。相当于“……得受不
了”“……得不得了”。
* 夜になると、どうも気分が滅入ってならない。
一到晚上就郁闷得不得了。
* 娘が優秀な成績を取って、母は嬉しくてならなかった。
听说女儿取得了优异的成绩,妈妈高兴得不得了。
小知识
出雲大社
出雲大社(いずもおおやしろ/いずもたいしゃ)は島根県出雲市にある神
社である。出雲大社の御祭神大國主大神は、古くから「だいこくさま」
として親しまれ、福の神、平和の神、縁結びの神、農耕の神、医薬の神
として崇められている。現在の御本殿は、延享元年(1744年)に造営さ
れたもので、国宝に指定されている。「出雲大社」は、日本を代表する
「縁結びの神様」といわれる。縁というのは、男女の仲だけでなく、す
べてのものが幸福であるために縁で結ばれていることを指し、お参りす
れば、あらゆる良縁に効果をもたらすと伝えられる。
出雲大社
出云大社是位于岛根县出云市的一个神社。出云大社供奉的是自古被尊称
为“だいこくさま”的大国主大神。他被认为是福运之神、和平之神、姻缘之
神和农耕之神。建于延享元年(1744年)的主殿被确定为国家重点保护文
物。出云大社被认为是日本“姻缘之神(月下老人)”的代表。所谓“缘”,不
单指男女的之间的缘分,也泛指所有因为追求幸福而结下的缘分,相传,
参拜出云大社可以带来好缘分。