ハッピーゲート
私たちの高校には、伝説がある。文化祭の時にだけつけられる手作りの裏門のゲート、そこをカップルで潜ると一生幸せな恋人でいられるというのだ。簡単だと思うでしょう?ところが、それが難しい。意中の相手を誘い出すことが第一難関というだけでなく、裏門というのはポイントだ。正門は出入り自由だけれど、裏門は一方通行、中から外へしか出られない。しかも、門には生活指導の遠藤先生が必ず毎年立っていて、文化祭の途中で抜け出そうとする生徒100%の確率で捕まえるのだ。もちろん、文化祭の終了前に、この門は、遠藤先生によって撤去され、倉庫に一年間しまわれる。どう、なかなか難しいでしょう。私がこの門の伝説を知ったのは、一年生の時。その時はあんまり興味がなかったけれど、三年になった今、どうしてもこの門を潜って見たいという願望に取り付かれている。それは、もちろん私が今恋をしているからほかにはならない。しかも、相手は学年で一番、いや学校で一番人気のある坂口君だ。私と坂口君は、そこそこ仲がよい。でも、その先一歩進めない。告白して断れたら、残りの高校生活が灰色になってしまいそうで、尻込みでしまう。そうしているうちに、進路指導の話しが出る時期になり、坂口君が東京の大学を希望していることがわかった、私は地元から出られない。ショックで受験勉強も手につかないくらいなら、いっそこの伝説にかけてみようじゃないかと思い立った。幸いにして私も坂口君も文化祭の実行委員だ。あのゲートを何とか突破して、告白したら結果はどうあれすっきりすると思う。文化祭が終了に近づころを見計らって私は坂口君を呼び出した。裏門はすぐそこに見えている。遠藤先生が門のそばに立って、帰る父兄を見送っていた。
「何?用事って?」
私は勇気を出して、坂口君の腕をつかんだ。「お願い、一緒に走って、わけは後で話すから」
二人して裏門を目指して走った。ハッピーゲートはすぐそこだ。結局、遠藤先生の脱走阻止は今年も100%だった。私たちは意図も簡単に先生捕まえられ、「実行委員ともあろうものが」とさんざんお説教を食らった。坂口君はいい迷惑だっただろう。もし分けない、裏門は今年も役目を終えて倉庫にしまわれた。
「で、理由って何だよ?」
腕組みして、夕日に背をする坂口君に私が正直な気持ちを話した。
「私たちの高校には伝説があった。ハッピーゲートの伝説」
私と坂口君は、あれから別々の大学に行ったけれど、結局今一緒にここにいる。教会の祭壇の前でウエディングドレスを着て、坂口君にリードされて赤い絨毯の上を歩く。坂口君がそっと私に耳打ちする。
「あれ、見てみなよ」
教会の出口に、見たことのある門がある。両側を支えているのはあのごろ一緒に実行委員をした仲間たち。
「どうしたの?」
「遠藤先生に頼んだ」
私たちは門を潜った。私たちは結婚したけれど、一生幸せな恋人でいられるはずだ。