意味:疑いの心をもって物事を見ると、ありもしない恐れを抱くようになるというたとえ。
あるところに斧を失くした男がいた。 男は隣家の息子が盗んだのではないかと疑いをもった。 そう思って、隣家の息子の様子をよく見てみると、 その歩き方からしていかにも斧を盗んだ者のように見える。 顔つきも斧を盗んだ者のように見え、話し方も斧を盗んだ者のように見える。 やること、態度すべてが、斧を盗んだ者のように見えた。
ところが、しばらくして、男が山のくぼちを掘っていると、 失くした斧が見つかった。 そのあとに、また隣家の息子を見たところ、 その動作、態度のどれひとつとして斧を盗んだ者のようではなかった。
【列子・説符】
この章はことわざで言うところの「疑心暗鬼を生ず」というものである。疑う心があれば、たとえその人が斧など盗んでいなくとも、自分が疑う心を持って見ることで、その一々すべてがみな疑わしくなる。