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六 バスカーヴィル邸(6)

时间: 2023-11-13    进入日语论坛
核心提示:「旦那様、わたくしとてもそのとおりで、また家内も同じ気持でございますが、実を申しますと、わたくしどもは、サー・チャールズ
(单词翻译:双击或拖选)

「旦那様、わたくしとてもそのとおりで、また家内も同じ気持でございますが、実を申し

ますと、わたくしどもは、サー・チャールズ様をたいへんお慕い申し上げておりまして、

お亡くなりになったことが、もうたいへんな心の痛手でございました。こうしていろいろ

なものを見るにつけて、ただ心が痛むばかりでございます。私ども、このバスカーヴィル

邸におりますかぎり、一日とて心の安まる日はないのでございます」

「それでどうするつもりなのかね」

「何か商売のようなものでもはじめたら、うまくゆくと思っております。サー・チャール

ズ様のお情けで、元手 もとで もいただいておりますので。いや、そんなことより、早くお部屋

へご案内いたしましょう」

 この古風なホールの上部には、手摺 てすり のついた廻廊がぐるりと四方を取り巻き、二つ折

りの階段がそれにかかっている。また廻廊の中央から二本の長い廊下が建物全体に伸び、

それに沿って寝室があった。私の寝室はサー・ヘンリーのと同じ側で、ほとんど隣り合っ

てるといってもよかった。これらの部屋は建物の中心部よりもずっと近代的な造りらし

い。明るい色の壁紙や無数のろうそくの灯が、館に着いたときからずっと心のしこりと

なっていた暗い気持を吹きとばしてくれた。

 しかし、ホールにつづく食堂は、またしても暗い陰気なところだった。細長い部屋で、

上段には家族が坐り、下段には使用人たちが坐るようにと段がつけられていた。一隅に

は、吟遊詩人のための高座が設けてある。黒ずんだ梁 はり が何本も頭の上をはしり、その上

には黒くいぶされた天井がある。燃えあがる松明 たいまつ をずらりと並べ、彩色豊かな荒々しい

昔日の酒宴に打ち興ずるのならば、その陰気もなくなろうというものだが、こうして地味

な服を着こんだ紳士ふたりが、ほそぼそと笠つきランプのうす明かりに照らし出されて

坐っておれば、声もとだえがちで、心もめいってしまうものだ。エリザベス朝の騎士か

ら、摂政時代の伊達男 だておとこ に至るまで、種々さまざまの服装をした祖先のくすんだ絵がわ

れわれを見おろして、ほかの物言わぬ仲間と一緒になってわれわれを威嚇 いかく するのであ

る。われわれはほとんど話もしなかったが、食事がすむと、私のほうはやれやれという気

持になった。それから近代的な球戯室へ行って煙草をいっぷくやることができたのであ

る。

「いやはや、あまり気持のいい場所じゃありませんね」サー・ヘンリーが言った。「ま

あ、なれると思いますがねえ。いまのところ、僕みたいな者には少々お門 かど 違いの場所み

たいな気がしますね。伯父もこんなところに独りぼっちで住んでいたんでは、神経衰弱気

味になったのも無理ないと思いますよ。でも、何でしたら、今夜は早くやすむとしましょ

うか。朝になれば、もう少し気持よくなるかも知れませんよ」

 寝台へのぼる前にカーテンを開けて外をのぞいてみた。窓の前は、ホールのドアに面し

た庭だった。向うのふたつの雑木林が折からの風にゆれ、ざわめいていた。先を競って流

れてゆく雲の切れ間から半月が見えた。林の向うには、たちきれた岩々の端や、低く長い

陰鬱な沼地の曲線が冷たい月光を浴びていた。この最後の印象が気持をやすめてくれるだ

ろうと思いながら、私はカーテンを引いたのだ。

 ところが、そうではなかった。疲れているのに目だけはさえて、眠ろう、眠ろうと一向

にやって来ない眠りを求めながら、休みなく転々とねがえりをうった。どこかで遠く時計

が十五分おきに時を告げるのが聞こえてくるが、あとは、死んだような静けさがこの古い

館を包んでいた。すると突然、この真夜中に、まぎれもなく、何かはっきりと妙に響く音

が聞こえた。女のすすり泣く声である。声を殺し、押しつぶしてはいるものの、押さえ切

れぬ悲しみにひきさかれた、むせび泣きである。私は寝台の上に起き上がってじっと耳を

すました。この声は遠くであろうはずがない、いや、たしかにこの家の中である。

 それからものの三十分、体中を耳にして待っていたが、ふたたび聞こえてはこなかっ

た。ただ時を告げる鐘の音と、壁をはう蔦 つた を鳴らす風の音がするばかりであった。

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