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十二 沼地の死(1)_バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:十二 沼地の死 とっさのあいだ私は息をのんで、自分の耳を疑った。やがて我にかえり、声も出るようになったが、それまで重く私
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十二 沼地の死

 とっさのあいだ私は息をのんで、自分の耳を疑った。やがて我にかえり、声も出るよう

になったが、それまで重く私の肩にのしかかっていた責任が、その瞬間、急に取りはずさ

れたように感じたのだった。その冷静な歯ぎれのよい、そして皮肉にさえ感じられる声は

他人のものであるはずはない。

「ホームズ!」私は声をあげた。「ホームズ君」

「出てきたまえ、だがピストルに気をつけてくれよ」

 入口の庇 ひさし から身をこごめて顔を出すと、彼はそこの石に腰をおろしていたが、その灰

色の目が私の驚き呆 ほう けた顔を見て、茶目っ気に踊っていた。痩せこけてやつれ、その鋭

い顔は陽に焼け、風にさらされて荒れてはいたが、さっぱりした様子できびきびしてい

る。ツイードの服を着てハンチングをかぶっているその姿は、まるでこの沼地の旅人と

言ったふうであった。しかも猫のように身躾 みだしな みのいいのは何時ものことだが、まるでベ

イカー街にいるときとおなじに、ここでも顎 あご をきれいに剃りあげて、シャツには皺 しわ ひと

つよせていない。

「誰に会っても、こんなに嬉しいと思ったことはないよ」私は彼の手を堅く握りしめた。

「それに、こんなに驚いたことはない、とね」

「うん、白状するとね」

「いや、驚いたのは君のほうだけじゃない。君がまさかこの僕の仮りの隠れ家を見つける

など、思いもしなかったし、この入口から二十歩のところにくるまで、君が中にいるとは

なおさら考えもしなかったよ」

「僕の足跡を見つけたのかい」

「そうじゃない、ワトスン。君の足跡を世界中の足跡の中に見分けるなんてことは約束で

きんな。もし君が真面目に僕をだまそうというのなら、煙草屋をかえなくちゃいけない

ね。オックスフォード街のブラッドリー印の煙草の吸殻を見つけたとき、わが友ワトスン

がこのあたりにいるな、とさとったのさ。そら、そこの道の横だよ。君はこの無人の石室

に、いざ突入しようというとき捨てたんだろう」

「いや、そのとおりだ」

「それで僕はすぐ思った、君の賞賛すべき粘り強さは知っているから、武器を手のとどく

ところに置いて、ここの住人の帰館を待ち伏せているとね。ところで実際に君は僕を脱獄

囚とでも思ったのかい」

「誰だかわからなかったが、見きわめようとは決心したよ」

「えらい、ワトスン。しかしどうして僕のこの住み家をつきとめたのだ。君たちがあの囚

人追跡をやった夜、僕はうっかり月がうしろに出るのを忘れるようなことをしたからね、

そのとき僕を見たというわけか」

「そうだ、あのとき君を見たんだ」

「じゃ君はここにくるまで、石室をひとつひとつ探してみたんだね」

「いいや、君のつかっている少年が見つけられたんだよ。それでどこを探したらいいか見

当をつけたんだ」

「じゃ、あの望遠鏡の老人だな。レンズに光線がピカリと反射するのを見たとき、最初は

それがなんだか見当がつかなかったがね」彼は立ちあがって石室をのぞきこんだ。「や

あ、カートライトが補給をしてくれているな。この紙は何だろう。なるほど、君はクー

ム・トレイシーに行ったのか」

「ああ、行ったよ」

「ローラ・ライオンズに会うためだね」

「うん、そのとおりだ」

「うまいぞ。僕らの捜査はちょうど平行に走っていたんだ。その結果を綜合すれば、この

事件のいろいろのことがわかるということだな」

「まったく僕は君を心から歓迎するよ、どうも責任の重大さと事件の不可解なことが僕の

神経に堪えられなくなって、音 ね をあげかけたところだったんだ。しかしいったい君はどう

してここに来たんだい、そして何をしていたんだ。僕はまた君がベイカー街で例の脅喝 きょうか

つ 事件に首をつっこんでいるとばかり思いこんでいたよ」

「そう思っていてもらいたかったな」

「じゃ、僕を動かしていながら、信頼はしていなかったというわけだな。僕は君のお役に

立ったつもりでいるんだがね、ホームズ」多少にがにがしい思いで私は言った。

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