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十四 バスカーヴィル家の犬(4)

时间: 2023-11-14    进入日语论坛
核心提示: 私はホームズと肘 ひじ がぶつかるほど近くにいたので、ちらと彼の顔をうかがった。その顔は蒼ざめてはいたが、誇らしい色を見
(单词翻译:双击或拖选)

 私はホームズと肘 ひじ がぶつかるほど近くにいたので、ちらと彼の顔をうかがった。その

顔は蒼ざめてはいたが、誇らしい色を見せ、目は月光にきらきら輝いて見えた。だが、突

然それをぐっと見ひらくと、じっと何物かに目をそそいだ。おどろきのあまりに口が開い

た。同時にレストレイドは恐怖の叫びをあげ、大地に顔をうちふせた。私はつっ立ち、手

はどうやらピストルをつかんだが、こちらに向かって霧の中からとびだして来た異形なも

のの恐ろしさに、心はしびれてしまうばかりだった。それはまさしく犬、巨大な漆黒 しっこく の

犬だったが、およそこれまで人間の目で見たことのないものだ。開いた口からは火をは

き、目はいぶるような光りに輝いていた。鼻先や頚 くび や喉がちらちらときらめく焔 ほのお にく

まどられていた。まるで夢うつつの、やたらに混乱した頭では、霧の壁からとび出して来

た、その黒い姿や顔つきほど、野蛮ですさまじく、身の毛のよだつものは考えも及ばな

かった。

 大きく身を躍 おど らせながら、その巨大な漆黒の生き物は、ひた走りにわれわれの友人の

あとを追って行った。その異様な出現は思いもかけずわれわれを呆然たらしめたので、我

に帰ったときには、すでに化け物は走り過ぎてしまったあとだった。ホームズと私は同時

にピストルを放った。すると化け物は、ぞっとするような叫びをあげた。少なくとも一発

は命中したのだ。それでも化け物はくじけず、ころげるように前へ前へと走りつづけた。

路上かなたで、サー・ヘンリーがふりかえるのが見えた。彼の顔は月光をあびて蒼白にな

り、恐怖のあまり両手をあげ、ただなすすべもなく、追ってくる化け物を見つめていた。

 だが猛犬のあげた苦痛の叫びで、われわれの恐怖はふきとんでしまった。傷を受けるも

のなら生き物だし、傷を与えれば殺せる道理だ。私はその夜のホームズほどに速く走った

人間をいまだかつて見たことがない。一心に追っているつもりなのだが、どうしてもひき

はなされてしまった。私の後にはホームズと私ほどもはなれて、小柄なレストレイド警部

が続いた。前にあって、サー・ヘンリーの悲鳴がつづけざまに聞こえ、猛犬の太く低いほ

え声が聞こえた。

 と、その猛犬が犠牲者にとびかかり、大地におしたおして、喉笛を食いきろうとしてい

るのが見てとれた。が、次の瞬間、ホームズはピストルを五発、すっかり犬の脇腹に打ち

こんでいた。怪獣は苦痛に断末魔の叫びをあげ、むなしく宙を噛むと、あおむけにころ

がって、四肢ではげしくあがきたて、すぐにぐにゃりと横たわってしまった。私は息をは

ずませながら身をこごめ、ちらちら光るおそろしい頭にピストルを押しつけたが、引き金

を引くまでもなかった。途方もなく大きな犬はすでに息絶えていたのだ。

 サー・ヘンリーは倒れた場所に気を失っていた。彼のカラーをひきちぎってみて、傷の

跡ひとつなく、救助の間に合ったとわかると、ホームズは思わず感謝の祈りをもらした。

そのときにはすでに、サー・ヘンリーはまぶたをふるわせ、かすかに身を動かそうとし

た。レストレイドが歯を割って、ブランデーのびんをおしこんだ。すると両眼を開け、驚

きの色を浮かべてわれわれを見上げた。

「うーむ」と彼はつぶやいた。「あれは何でした?いったい何物だったのです?」

「まあ何にしても、もう死んでしまいましたよ」ホームズは言った。「一家にまつわる幽

霊を、一度で永久に仕止めてしまったのですよ」

 われわれの前に横たわっている野獣は、その大きさとたくましさだけでも、ぞっとする

ような代物 しろもの だった。純粋なブラッドハウンドでもマスティフ種でもなく、ふたつの混合

種らしかった。無気味で、獰猛 どうもう で、小柄な牝ライオンほどもあった。死んで動かない今

でさえ、大きな顎からは青白い光りを発すると見えて、小さな落ちくぼんだ恐ろしい目は

焔にふちどられていた。私は光っている鼻先に手をやった。するとさし上げた私の指が、

暗闇でにぶくひかった。

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