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クライマーズ・ハイ01

时间: 2018-10-19    进入日语论坛
核心提示:     1 旧式の電車はゴトンと一つ後方に揺り戻して止まった。 JR上越線の土合《どあい》駅は群馬県の最北端に位置する
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 旧式の電車はゴトンと一つ後方に揺り戻して止まった。
 JR上越線の土合《どあい》駅は群馬県の最北端に位置する。下り線ホームは地中深くに掘られたトンネルの中にあって、陽光を目にするには四百八十六段の階段を上がらねばならない。それは「上がる」というより「登る」に近い負荷を足に強いるから、谷川岳の山行はもうここから始まっていると言っていい。
 悠木和雅《ゆうきかずまさ》は爪先の収まりの悪さに登山靴を意識していた。
 そうでなくても一気に階段を上がりきるのは難しかった。ペンキで書かれた「300段」の手前の踊り場で、たまらず一息入れた。十七年前と同じ思いにとらわれる。試され、篩《ふるい》に掛けられている。ここで息が上がるようなら「魔の山」の領域に足を踏み入れる資格はないということだ。十七年前は記者生活の不摂生が肩で息をさせたが、今回は五十七歳という年齢が脈拍数を何割か増加させているようだった。
 衝立《ついたて》岩に登る。
 胸の決意は今にも霧散してしまいそうだった。それでも安西耿一郎《あんざいきよういちろう》の輝く瞳が脳裏から消えてしまったわけではなかった。耳も忘れてはいない。生粋の「山屋」であった彼がぽろっと口にしたあの言葉を。
 下りるために登るんさ──。
 悠木は上を見つめ、階段の歩を進めた。
 下りるために山に登る。その謎めいた言葉の意味をずっと考え続けてきた。一つの答えが胸にある。だが、その答えを確かめる相手がもはやこの世にいなかった。
 地上には初秋の淡い光が満ちていた。午後二時を回ったところだ。頬を撫でる風は冷たかった。同じ群馬でも悠木が長く住んでいた高崎とは気温も空気の匂いも異なる。赤いとんがり屋根の駅舎を後にして国道291号線を北に向かって歩く。踏切を越え、雪除けのトンネルを抜けると芝地が右手に広がる。土合霊園地だ。
 地元水上町が建立した「過去碑」には、谷川岳で遭難死した七百七十九人の名が刻まれている。「魔の山」の呼び名だけではその凄絶な歴史を説明しきれず、だから「墓標の山」「人喰い山」といった直截的な異名を併せ持つようになった。たかだか二千メートル級の連峰にありながら、地球上のどこを探してもこれほど死が身近な山は存在しない。一つには上越国境特有の気象変化の目まぐるしさが遭難多発の要因に挙げられる。しかし仮に、谷川岳が「一ノ倉沢」に代表される急峻な岩場を抱えていなかったとしたら日本中にその名を馳せることもなかった。未登岩壁の征服。熾烈な初|登攀《とうはん》争い。往時、先鋭的な登山家たちは艱難《かんなん》と名声を求めて津波のごとくこの地に押し寄せた。地下駅ができるや、彼らはあの四百八十六段の階段を全力疾走で駆け上がったという。一分一秒を競って岩壁に取りつき、存分に攀《よ》じり、そして存分に墜ちた。谷川岳が危険な山であることが喧伝されればされるほど、血気盛んな若い登山家の心を高揚させ、それがまた過去碑の名を増やす結果へと繋がっていった。
 衝立岩は、そんな彼らをして「不可能の代名詞」「最終課題」と言わしめ、長い年月、未登の岩壁であり続けた。時はめぐり、登山用具とクライミング技術の進歩によって十数本の登攀ルートが開拓されるに至ったが、それを成すために、さらなる多大な犠牲が払われたことは言うまでもない。「ワースト・オブ・ワースト」──最悪の中の最悪。それこそが衝立岩に与えられた最後の異名だった。
 なあなあ、悠ちゃん、ドーンと思い切って衝立岩をやろうや──。
 安西に連れられて衝立岩を下見した。彼の手ほどきで訓練も積んだ。十七年前のあの日、悠木と安西はザイルを組んで衝立岩に挑むはずだった。
 だが、約束は果たせなかった。
 その前夜、日航ジャンボ機が群馬県上野村山中の御巣鷹《おすたか》山に墜落したからだった。一瞬にして五百二十人の命が散った。悠木は地元紙「北関東新聞」の統括デスクとして、谷川岳ではない、もう一つの「墓標の山」と格闘することになった。
 そして、一方の安西は──。
 ざわめきに気づいて、悠木は視線を上げた。もう谷川岳ロープウェイの土合口駅が近かった。周辺の広場や駐車場は大勢の行楽客で賑わっていた。土産物の屋台を横目に旧道を進むと登山指導センターの建物が見えてくる。腕時計に目を落とす。待ち合わせの三時にはまだ少しばかり時間があった。
「こんにちは。どちらへ入られます?」
 悠木が建物の中のベンチで休んでいると、登山指導員の腕章を巻いた男がにこやかに話しかけてきた。山支度は完璧のつもりでいたが、見る人間が見れば悠木が「山屋」でないことはすぐにわかるのだろう。ザックの上にはヘルメットも覗いているから一般コースへ向かう客ではない。条例で指定された危険地区に入山するつもりに違いないが、この男は果して大丈夫か──顔は笑ったまま指導員の瞳はそう語っていた。
「一ノ倉に入って、明日、衝立を登ります」
 言いながら悠木はウエストバッグを開き、登山届けの交付書を取り出した。十日ほど前にこのセンターに郵送し、届出済の判を貰っていた。
「ほう、衝立ですか……」
 指導員は言葉を濁して交付書に目を落とした。まず年齢が引っ掛かったようだ。登山歴の書き込みにも首を捻っている。榛名《はるな》や妙義《みようぎ》のゲレンデで岩登りの練習を積んできたが、悠木には本格的な登山の経験はない。いよいよ笑顔を維持できなくなった指導員が何かを言い掛けた時、建物に入ってきた長身の若者が悠木に歩み寄って会釈した。
「遅くなってすみませんでした」
「なんだい、安西君の連れかぁ」
 指導員は途端に言葉を崩し、一切の心配事が消し飛んだ顔で腰を上げた。
「助かったよ」
 悠木が苦笑いの顔で言うと、地元山岳会の若きエースは白い歯を覗かせた。
 安西燐太郎《あんざいりんたろう》。笑うと幼さすら感じられて、とても三十になったとは思えない。輝く大きな瞳は父親譲りだが、無口で控え目なところは母親の性格をそっくりそのまま受け継いでいる。安西が昔明かしたところによれば、長男の名は「燐太郎」ではなく「連太郎」になるはずだった。名字と名前の頭の部分を繋げて「アンザイレン」と読ませたかったらしい。ドイツ語で「互いにザイルを結び合う」という意味だ。
 いやあ、女房に即《そく》見抜かれちゃってさあ。あん時はもうタジタジ──。
「悠木さん、淳《じゆん》君は?」
「ああ、連絡がつかなかったんだ」
 悠木は燐太郎を見ずに言った。長男の淳は東京でアパート暮らしだ。留守電に今日の計画を吹き込んでおいたが応答はなかった。
「二人で行こう。最初からそのつもりだったんだし」
「わかりました。で、どうします? ここに泊まることもできますが」
「いや、出合まで行って天幕を張ろう。早く見たいんだ。なんせ十七年ぶりだからな」
 悠木が行く気満々のところを見せると、燐太郎は嬉しそうに頷き、すぐさま装備品の点検に取り掛かった。
 その姿が目に眩しかった。十三の時から知っている。体も心もすっかり逞しくなった。なにより、優しく真っ直ぐに育った。
 二月《ふたつき》前だった。前橋の斎場の駐車場で、燐太郎は独り佇んでいた。目線は高く、角張った煙突から棚引く煙を静かに見つめていた。瞳は濡れていたが、決して泣いてはいなかった。悠木が背後から肩を叩くと、燐太郎は空に目をやったまま呟いた。
 父さん、やっぱり北へ向かいましたね……。
「用意できました」
「うん。じゃあ行こうか」
 二人は登山指導センターを出た。
 九十九《つづら》折りの日陰道を行く。勾配はゆるやかだ。両側の視界を遮るブナ林が空気を濃密なものにしている。下草がざわめき、野猿が油断のない動きで前方を横切った。
 燐太郎は無言で前を行く。その背中を見つめてただ歩く。どれくらいの時間そうしていれば一ノ倉沢の出合に辿り着くのだったか、記憶は定かではなかった。あの日、岩壁は不意打ちのように現れた。覚えているのは、その瞬間の衝撃だけだ。
 今日も同じだった。
 道の真ん中を歩いていた燐太郎の体がふっと右に避けた。視界を開いてくれたのだ。悠木は息を呑み、その場に立ち竦《すく》んだ。
 眼前に、黒々と聳《そび》え立つ岩の要塞があった。
 いや、実際にはまだ遥か遠方にある。なのに圧倒的な岩の質感がそう見せる。視界のすべてを奪ってこちらに迫ってくる。上越国境の稜線が真一文字に宙を切り裂き、その上の空は圧縮されでもしたかのように狭い。壮観というのとは違う。威圧的だ。一ノ倉沢は人間を拒絶している。そうせんがために、確固たる意思を抱いた自然が巨大な城壁を築き上げた。そんな思いにとらわれる。
 衝立岩は──その強大な城壁を護る門兵の位置にそそり立っている。痛々しいまでに鋭利な垂壁。「ハング」と呼ばれる垂れ幕のような形状の岩盤が幾重にも折り重なり、陰惨な悪相を晒している。ワースト・オブ・ワースト。まさしく、そう見える。
 あそこを登ってみたい。そんな欲求を覚える人間がいったいどれだけいるだろう。いや、欲求を覚えた特別な人間だけが歩き始めるのだ。「山屋」という特別な道を。
「俺にやれるだろうか……」
 思いがそのまま言葉になっていた。
「やれますよ」
 燐太郎は短く言い残して河原へ下りていった。テントを張る場所を物色するのだろう。
 悠木はまだ動けずにいた。十七年前に感じた畏《おそ》れが、今また全身を支配していた。
 あの時は下見に来ただけだった。
 今度は登る。
 二つの「墓標の山」が脳裏で交錯した。
 十七年前の熱風が胸に蘇る。
 未曾有《みぞう》の航空機事故だった。操縦不能に陥って群馬県に迷い込んできたJAL123便……。悠木もまた、あの日を境に迷走した。悪ければ悪いなりの人生を甘受し、予測される日々を淡々と生きていけばいいと考えていた。そんな乾いた日常をあの事故が一変させた。大いなるものと対峙した報道現場の七日間。ヒリヒリと焼けつくような分刻みの時間の中で、己《おのれ》の何たるかを知り、それゆえに人生の航路を逸《そ》れた。
 悠木は挑む思いで衝立岩の垂壁を見つめた。
 標高差三百三十メートル。東京タワーの高さの垂直の岩壁を、この手この足で攀じ登る。
 下りるために登るんさ──。
 網膜に安西の瞳があった。何本もの管を体に通され、その身はベッドに囚われても、彼の瞳は輝いていた。十七年間いっときも、その瞳が輝きを失うことはなかった。
 登っていたのだ、安西耿一郎は──。
 不意に視界が滲んだ。
 悠木は大きく息を吸い込み、目を閉じてゆっくりと吐き出した。
 登らねばならない。
 安西の心の声にもう一度耳を傾けるために。
 悠木自身にとって、この十七年間が何であったかを知るために。
 昭和六十年八月十二日──。
 すべてはあの日に始まった。
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