日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 横山秀夫 » 正文

クライマーズ・ハイ47

时间: 2018-10-19    进入日语论坛
核心提示:     47 二十分ほどして地下に下りた。 足は自然と速まった。自分の靴音だけが反響するがらんどうの廊下を抜け、食堂に入
(单词翻译:双击或拖选)
      47
 
 二十分ほどして地下に下りた。
 足は自然と速まった。自分の靴音だけが反響するがらんどうの廊下を抜け、食堂に入ると、天窓のある壁際の席に白いTシャツ姿の若い女が座っていた。
 互いに顔は知っていた。六日前にも高崎市内の霊園で会った。悠木を睨み付けた。懸命に。そんなふうに見えた。
 食堂は二人の他に客はいなかった。洗い場も静まり返っている。休憩時間に入ったのだろう。
 悠木が歩み寄ると、彩子は立ち上がってきちんと頭を下げた。逆光に近いから、Tシャツや茶色っぽい髪の縁が淡い光を帯びている。
 テーブルで向かい合って座った。彩子は簡単な自己紹介をした。思っていた通り、望月亮太の従姉妹だった。望月の父親の弟の一人娘。歳は二十歳。県立大学の二年生。ひどく童顔だが、黒目がちの瞳に力と確かな知性が感じられて、どうにか歳相応に見える。素性がはっきりわかってみても、悠木は落ちつかなかった。目の前の彩子の内面がまったく読めない。
「最初に謝らなくちゃならない。また電話をすると言ってしなかった」
「お忙しかったんですよね」
 彩子は微かに笑って言った。皮肉や厭味の混じり気はないが、しかし何やら深い思いの籠もった、予《あらかじ》め用意してきた言葉に聞こえた。
「私、日航機事故の記事、毎日読んでます。大学でメディア論とジャーナリズム史をとってるので」
 悠木は眩しげに彩子の顔を見つめた。
「それで、今日は?」
 彩子は悠木を見つめ返した。
「大学で習うより、貴重な体験をさせてもらいました」
 次の言葉を待つほかなかった。
「この二日間、私、あなたからの電話を待ってました。でも掛かってこなかった」
「すまなかった」
「そう、お忙しかったんですよね」
「ん」
「人の命って、大きい命と小さい命があるんですね」
 悠木は息を呑んだ。
 頭は空転していた。それでも彩子の言葉は痛みを伴って胸に染み渡った。
 彩子は続けた。
「重い命と、軽い命。大切な命と、そうでない命……。日航機の事故で亡くなった方たち、マスコミの人たちの間では、すごく大切な命だったんですよね。私、そのことがわかったんです」
 何と答えていいかわからなかった。
「私、八年前に父を交通事故で亡くしたんです。育英会のお世話になって高校まで卒業して、今も奨学金いただいて大学に通ってるんです。寂しくはありませんでした。亮ちゃんのところの伯父と伯母がすごくよくしてくれて、亮ちゃんも本当の兄のように遊んでくれましたから」
 アイスコーヒーの氷はすっかり溶けていた。彩子がストローの紙袋の封すら切っていなかったことに悠木はいま気づいた。
「父は左官ですごく優しい人でした。悔しくてたまりません。父は全然悪くなかったんです。横断歩道を渡っていて、なのに、飛ばしてきたオートバイに轢かれてしまって」
 彩子は胸元に両手を当てた。その胸の辺りが大きく波打っていた。
「重体でした。新聞にも小さく出ました。私、大学に入ってから図書館で調べたんです。ベタ記事って言うんですよね、社会面の一番下に十二行載ってました」
「………」
「三日後に死んだんです。でも、死んだことは新聞に載らなかった。事故が起きてから二十四時間以上経ってから亡くなると、警察は死亡事故の扱いはしないんですよね。だから統計の数字にも父の死は含まれてないし……」
 彩子は探るように悠木の目を見つめた。
「新聞だって忘れちゃったんですよね。父、偉くもなんともなかったし、世の中からいなくなってもどうってことないし。小さくて、軽くて、大切じゃない命だったから……。だから、重体で病院に運ばれたこと、記者の人、忘れちゃったんですよね。父が死んだことに誰も気づかなかったんですよね」
 彩子はハンカチを取り出して目元に当てた。息を大きく吸い込んで、それを強く吐き出し、気を取り直したように真っ赤な目と鼻を悠木に向けた。
「亮ちゃんだって、あっと言う間に忘れられちゃったんでしょ? さっき、編集局にお邪魔して、そうしたら皆さん、冗談とか言い合って笑ってました。一回、記事が出て、それでもうお終い。同じ会社で働いてたのに、きっと誰も亮ちゃんのこと思い出したりしないんですよね」
「それは違う」
 悠木は言った。自己弁護のためでなく、彩子のために言った。
「みんな思い出す」
「うそ」
「ずっと思い出してるわけにはいかない。だが、思い出す。本当だ」
 言っていて、胸が締めつけられた。「戦線離脱」。望月が汚名を被ったことによって、悠木は社内的に救われたのだ。
 彩子は小さく顎を突き出した。
「あなたが亮ちゃんを死なせたんですよね」
 悠木は彩子の目を見つめて頷いた。
「そうだ」
「だったら」
 涙の底に沈んだ彩子の瞳が、挑むように悠木を見た。
「ずっと思い出していてあげて下さい」
 悠木はまた頷いた。
「亮ちゃんのこと、いつも思っていてあげて下さい」
 さらに深く頷いた。今にも心が潰れそうだった。
「私、ずっと思い出していますよ。十五の時からずーっと」
 掠れた声が震える唇を割った。
「いけませんか? 従兄弟を好きになっちゃ」
 それから二人は一言も口をきかなかった。
 十分ほどして、彩子は立ち上がった。
「一昨日は伯母に頼まれて電話したんです。もう月命日には来ないで下さい」
 悠木も席を立った。
「わかった。二度と行かない。そう伝えてくれ」
「それと──」
 彩子はビニールのバッグの中を指先で探った。二つ折りのレポート用紙を取り出し、悠木に差し出した。
「これ、私なりに考えた小さい命のことです。『こころ』の欄に載せて欲しいんです。前にも一度、投稿したことがあったんですけど、ボツになったみたいで」
「わかった。載せると約束する」
「ありがとうございます」
 彩子はまたきちんと頭を下げて、食堂を出ていった。
 靴音が遠ざかり、消え、悠木は脱力感に襲われて椅子に腰を落とした。
 体全体が鉛のように重かった。
 二十歳──悠木の半分しか生きていない娘がメディアの本質を見抜いていた。
 命の重さ。
 どの命も等価だと口先で言いつつ、メディアが人を選別し、等級化し、命の重い軽いを決めつけ、その価値観を世の中に押しつけてきた。
 偉い人の死。そうでない人の死。
 可哀相な死に方。そうでない死に方。
 脳裏に、老婆の顔が浮かんでいた。
 安西の見舞いに県央病院を訪れた時に見かけた老婆だ。一階ロビーには大画面テレビが置かれていて、藤岡市民体育館の映像が流れていた。顔にハンカチを押し当てた若い女性が、別の初老の女性に肩を抱かれながら歩いている場面で、長椅子の端に座っていた老婆が呟いた。
 あんなに泣いてもらえればねえ……。
 羨んだのだ。墜落事故で亡くなった人のことを。
 自分が死んでもあれほど悲しんでくれる人はいない。老婆は知っているのだ。
 あの待合室にいた、表情のない人々の群れ……。
 望月亮太の顔が思い出された。
 小さな命……。軽い命……。
 馬鹿な。決してそんなことはなかった。だが……。
 悠木は無理やり思考を断ち切った。腕時計を見た。もう三時半を回っていた。わざと勢いよく立ち上がった。背筋を伸ばした。
 何がどうあろうと、日航機事故から逃げ出すわけにはいかない。
 悠木は食堂を出た。廊下を歩きながら、彩子が寄越したレポート用紙を開いた。
 文面を目で追った。
 まず足が止まった。読み進むうち、血の気が引いていくのが自分でわかった。
 彩子は、さっき悠木に話したことの多くをそのまま文章にしていた。
 体の芯が震えた。最後の四行がそうさせた。
≪私の父や従兄弟の死に泣いてくれなかった人のために、私は泣きません。たとえそれが、世界最大の悲惨な事故で亡くなった方々のためであっても≫
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%