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クライマーズ・ハイ10

时间: 2018-10-19    进入日语论坛
核心提示:     10 夏の光が皮膚に痛いほどだった。 駐車場へ向かう悠木の足取りは軽かった。二日ぶりに社屋を出た解放感がある。墜
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 夏の光が皮膚に痛いほどだった。
 駐車場へ向かう悠木の足取りは軽かった。二日ぶりに社屋を出た解放感がある。墜落事故の喧騒からもいっとき逃れられる。なにより、佐山の現場雑観に目を通したことが悠木の心に透明感を与えていた。
 車にはすぐには乗り込めなかった。悠木は窓を全開にし、エアコンで車内の熱気を追い出した。北関の本社がある総社町から高崎の自宅までは車で二十分ほどの距離だ。そのあと前橋に取って返して県央病院に回るつもりだから、のんびりとした運転にはならなかった。
 家の駐車場には赤い軽《けい》がとまっていた。声も掛けず突然居間に姿を現したが、弓子は驚くでもなかった。
「あら、お帰りなさい。飛行機の事故、大変だわね。あの山に行ってたの?」
「本社でデスクをやらされてた」
「ずっと?」
「ああ」
「じゃあストレス溜まったんじゃない?」
 記者よりも記者のことがわかる。十五年も一緒にいればそういうことになるのだろう。
「淳は?」
「いるわよ」
 微かに心が波立つ。なぜ出てこない──。
「由香は?」
「友だちとプール」
「スポ少は?」
「あなた、お盆よ」
 笑う弓子に汗くさいYシャツとネクタイを放った。
「で、また出社?」
「ああ。シャワーを浴びたら出る。二、三日分、着替えを詰めといてくれ」
「大変?」
「ちょっとな」
 悠木が冷蔵庫から麦茶を取り出していると、背後をパジャマ姿の淳が通った。「おっ」と声を掛けると、いつもの「あ」が返ってきた。テレビの脇の本棚からマンガ本を掴み出し、ソファに寝ころんで読み始めた。中学に入ってぐっと背が伸びた。踝《くるぶし》から先が二人掛けのソファに納まりきらなくなっている。
 キッチンに入ってきた弓子に小声で訊いた。
「なんでパジャマなんだ?」
 習慣で弓子も声を潜める。
「風邪気味なのよ」
「熱があるのか」
「ないみたいよ」
「計ってみたのか」
「さあ」
「薬は?」
「自分で聞いてみたら」
 そう口にする時の弓子の目が嫌いだ。憐れみと、突き放すような残酷な色が同時に浮かぶ。あなた父親でしょ? 三年前、そう言って悠木に頬を張られて以来、同じ問いを目で語るようになった。
 学生時代にはもう同棲していたから、互いに大概のことは知っている。だが、悠木は父の蒸発に限っては弓子に秘していた。悠木が中学生の時、病死したことになっている。生い立ちに引け目を感じて嘘を言ったわけではなかった。父が蒸発した事実を話すことは、赤子を抱えた母が、どうやって食べていたのかという疑問を弓子に抱かせる。
 あの当時、何人の男が家に出入りしていただろう。納屋の奥で、幾つの眠れぬ夜を過ごしたろう。九年前、母が心不全で逝った時、悠木は一人安堵の溜め息をついた。社会に出て独り立ちした男にとって、後ろ暗い過去を持つ母親は、ただの弱みでしかなかった。
 悠木と淳は相性が悪い。弓子は単純にそう思い込んでいるようなところがある。どちらの肩を持つでもなく、間に入ってうまくやっている。それならそれでいい。この先もずっと弓子を介して淳と付き合っていけばいい。最近ではそんな諦めにも似た気持ちを抱くようになっていた。どのみち、あと十年もすれば淳はこの家から巣立っていく。それまで関係をひどく拗《こじ》らせないように注意を払いながら、ぼんやりとした父と子であり続ければいい。
 悠木はキッチンを出た。
「淳──」
「あ」
 感情の乏しい瞳がこっちに向いた。
「風邪だって?」
「あ」
「熱は?」
「ない」
「ちゃんと計ったのか」
「う」
「クーラーの当たらないところで転がったほうがいいぞ」
「う」
 悠木は風呂場に向かった。
「うるせえ」の「う」であることはわかっている。だが、「うん」の「う」だとも言い張れることに気づいて、淳は五年生の頃からそれを多用するようになった。父親に殴られないために。そして、おそらくは父親に服従しないために。
 そんな淳の内面を見抜き、逆上したことがあった。悠木が顔を殴りつけると、よろけた淳は咄嗟にテーブルの上のハサミを握った。その刃先が悠木に向けられることはなかった。親を憎むには幼なすぎた。淳は、自分の顔の前で垂直に立てたハサミの刃先を、寄った両目で睨み付け、獣のような唸り声を上げ続けた。
 水に近いシャワーを浴び、着替えの詰まったバッグを下げて家を出た。
 県央病院へ向かう車中、悠木は重たい息を何度も吐いた。
 淳の顔は熱っぽいように見えた。額に手を当ててやる。そんな当たり前のことすらできなくなっていた。
 家族を渇望して生きてきた。父と母と子と。そこには絶え間のない笑みが存在すると信じていた。幸せになりたくて家庭を持った。淳も由香も自分の心の飢えを満たすためにもうけた。それぞれがまた親となり、苦悩の中を生きていかねばならないことを、悠木は考えてみたことがなかった。
 一人で生きていくべきだったと思う。恋愛も結婚もせず、子供も作らず、父を憎み呪いながら一人朽ち果てていけばよかったのだと思う。
 悠木はアクセルを踏み込んだ。
 病院へ向かう。安西の容体を心配しているはずの自分が、その安西に某かの救いを求めているような気がして、悠木の心はさらにくすんだ。
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