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クライマーズ・ハイ44

时间: 2018-10-19    进入日语论坛
核心提示:     44 八月十八日──。 悠木は午前十一時に出社した。早出したのには理由があった。昨夜、出版局次長の貝塚《かいづか
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 八月十八日──。
 悠木は午前十一時に出社した。早出したのには理由があった。昨夜、出版局次長の貝塚《かいづか》の自宅に電話を入れ、日航機事故に関する書籍の出版が可能かどうか打診した。にべもなく断られる。内心そう思いつつ用件を告げたのだが、意外にも貝塚は乗り気で、社で具体的な相談をしようということになった。
 事故の記録を本としても残したい。そんなことに頭が回ったのは、やはり、悠木の胸のうちに、新聞報道の初期段階の山場は越えた、との思いが広がっていたからだった。
 別の頭では、これからが本番と考えてもいた。五百二十人の遺体の身元確認が終了するのは相当先のことになるし、所持品の確認や遺族による慰霊登山、機体の搬出作業、さらには合同慰霊祭と、取材機会が減じることは当分の間なさそうだった。
 とはいえ、一つの事件や事故が長期化すれば、否応なく記者と編集スタッフの士気は低下する。悠木の胸中のみならず、局の大部屋にも既にその兆候が見え始めていた。発生当初、いかなる驚愕と震撼をもって迎えられようとも、ニュースというものは時間経過とともに鮮度を失い、やがては「腐る」。かつて幾度となく経験したからわかる。取材と紙面がマンネリに陥ると、気持ちは「次待ち」になる。自分でも意識しないまま、今ある手持ちのニュースを凌駕《りようが》する新たな事件事故を待ちわびるのだ。
 例外を作りたい。この日航機事故をニュースとして一日も長く延命させたい。悠木が本の出版を思い立った理由の一つにそれがあった。刹那的に流れる新聞制作現場に、「後で本にまとめる」という意識を植え付け、社内的な事故の風化に歯止めを掛けたいと考えた。
 同時にそれは、日航全権デスクとして、部下の労に報いねばならないという義務感にも通じていた。できうる限り多くの若手記者に現場を踏ませる。悠木がごり押ししたその方針のもと、事故発生から一週間で延べ五十人を超える記者を御巣鷹山取材に投じてきたが、そうしたがために、彼らの書いた原稿の大半は紙面化されず、いまだ悠木の机の引き出しの中で眠ったままだ。時機を逸し、既に使えないものも多い。そのボツ原稿を吟味し、加筆修正させて本に収録する。日航機事故取材班の一員として全員の名を残す。もし書きたいと言うなら、御巣鷹に弾き返された川島の無念さや、聞き込んだネタをデスク判断で幻のスクープにされた玉置の憤懣《ふんまん》を載せたっていい──。
 自分の本音は実はその辺りか。思いながら、悠木は本社ビルの階段を上った。二階の渡り廊下で西館へ向かう。天井の採光窓から降ってくる陽射しに一瞬目が眩んだ。今日も滅法暑くなりそうだ。
 出版局のドアを押し開くと、日曜だというのに幾つかの顔が悠木に向いた。その一つが次長の貝塚だった。
「随分と稼ぎますね」
「ああ、自費出版の客は土日でないと会えないことが多くてね」
 悠木は嫌な予感がした。貝塚の態度が電話の声とは打って変わって迷惑そうだったからだ。
「ああ、話はこっちで」
 貝塚が指さしたのは奥の局長室だった。
 悠木は無言で従った。内心では貝塚を罵倒していた。茂呂《もろ》局長に直接話したのでは持ち上がる話も持ち上がらない。そう思ったからこそ、まずは記者経験のある貝塚と下話をして、と小さな計略を立てたのだ。
 局長室では、茂呂が気障《きざ》な手つきで悠木と貝塚にソファを勧めた。未練がましく読みかけの本を閉じ、掛けていた眼鏡をケースの中のものと取り替え、耳に被った長い毛を手櫛で整えながら執務机を立った。物知り顔だ。
「何の本を出したいって?」
「今やっている日航機事故のドキュメントのようなものです」
「ようなもの……ね」
 小馬鹿にしたように言って、茂呂は悠木の正面に座り、大仰に腕と足を組んだ。目が、ちゃんと言い直せと促している。
 悠木は無視して話の続きを口にした。
「そうした本がウチで出せるかどうか伺いたくて来ました」
「だから、どんな本?」
「ですから、日航機事故をウチなりに総括する本です。記者の手記と写真で構成し、記録として残します」
「記録? だったら新聞をスクラップすればいいんじゃないの?」
「形としてきちんと残したい、ということです。なにせ、世界最大の航空機事故が県内で起きたわけですから」
「何部ぐらい刷るの?」
「いや、それは……」
 悠木は言葉に詰まった。具体的なことは何も考えていなかった。
 物知り顔が、したり顔に変わった。
「その本、誰が買うの?」
 予想された質問だった。
 北関の出版局が出している刊行物の大半は自費出版による書籍だ。元校長が回顧録を上梓したいとなれば、まずは教え子の数を調べるし、華道、茶道の師範が出すなら弟子の数がそのまま発行部数になる。
 茂呂が作り上げてきたシステムだった。若い時分から、代議士が選挙用に配る自伝を代筆したり、怪しげな企業経営者の立身出世物語を書いて小遣銭を稼いできた。ゴーストをするにはあまりに稚拙な筆が、しかし方々で評判を呼び、茂呂さんに書いて欲しいという申し入れが年に十数件はあるという。
 悠木は当たって砕けろの思いで口を開いた。
「一般の読者向けに書店で売りたいと思います。置いてもらえるでしょうか」
「そりゃあ、僕が頼めば郷土出版コーナーに入れてくれるけど、売れないだろ、そんなモン置いたって」
「関心は高いと思いますが」
「けど、県内の人、あんまり乗ってなかったみたいじゃない」
 あんまり……?
 悠木はぎょっとした。いや、この部屋に入った時に気づいていた。執務机にも、目の前のテーブルの上にも今朝の北関は見当たらない。
 悠木は茂呂の目を見据えて言った。
「本県関係の罹災者は一人です」
 茂呂は呆れ顔になって、あさってのほうを向いた。
「じゃあ、駄目だよ。お話にならないな」
 知らなかったのだ、やはり。
 不意に、悠木の傍らで居心地悪そうにしていた貝塚が身を乗り出した。
「グラフ誌みたいなものではどうでしょう?」
「何だと……?」
 茂呂が低く言い返した。直属の部下を見る目つきには蔑みと威嚇だけがあった。
 貝塚は萎縮したが、以前、編集局に在籍していた手前、少しは悠木の援護射撃をせねばと思ったのだろう、早口で続けた。
「薄いグラフでモノクロを多く使えば書籍ほど経費も制作日数も掛かりません。県警や自衛隊、消防などから事前に注文を取っておけばペイできると思いますし、それにグラフなら書店でもそこそこ売れるんじゃないでしょうか」
「馬鹿かお前は。上毛がやってる『グラフぐんま』とぶつかるだろうが。あっちは県が金を出してるからいいが、こっちは自腹だ。売れなかったらそのまま損を被るんだぞ」
「しかし、県が金を出している分、向こうは事故そのものと言うより、関係者の活躍ぶりを伝える内容になるでしょう。ウチは、悠木君の話を聞く限り、新聞報道を深掘りするわけですから差別化も図れると思いますが」
「そんなモン、とっくに『フライデー』と『フォーカス』がやっちまったろうが。あんな刺激的な写真を見た読者が、いまさら新聞社の作ったお行儀のいいグラフなんぞ見たがると思うか」
「それはそうですが……」
 もう結構ですから。悠木は喉まで出掛かっていた。
 茂呂の苛立った目が悠木に向いた。
「普通の体裁の本だって同じだぞ。どのみち朝日や読売が手品みたいなスピードで作ってくる。内容も速度もウチが太刀打ちできるはずがないだろうが」
「御巣鷹の現場取材は他社と遜色ないと断言できます」
 思わず言い返したが、茂呂は聞く耳持たぬの顔でさらに言い募った。
「思い上がるな。地方紙は地方紙らしく、つましくやってりゃあいいんだ。編集の連中は事故がでかくて舞い上がっちまってるんだろうが、頭を冷やすようにお前から上に言っとけ」
「上にはまだ話していません」
 悠木は腰を上げていた。
 歩き出した背中に、憎々しげな声が追い打ちを掛けてきた。
「馬鹿馬鹿しい。赤を承知で、編集の自慢話を満載した本なんぞ作れるか」
 それが本音だろう。悠木は足を止めずに局長室を出た。
 局員は、今度は一人も顔を上げなかった。揃って今日が締切であるかのように、自費出版の原稿とおぼしき分厚いゲラに赤ペンを走らせている。
 日航機事故で一儲け企むよりはまし。
 そう自分に言い聞かせて、悠木は廊下に硬い靴音を響かせた。
 
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