ホテルに戻って来ると、ブンチャカブンチャカ♪楽隊の音がした。
滞カトマンズすでに7日である。その音の意味するところは間違いない。結婚式である。
こちらの結婚式はまどろっこしくて、まず昼間花婿の家でブンチャカブンチャカ♪をやって、ごちそうなども出され、親戚や友人、近所の人々に盛大に見送られてブンチャカブンチャカ♪やりつつ花婿は花嫁の家まで迎えに行く。この際使われるのは、例のマリーゴールドのレイで飾り付けられた自動車である。さらに花嫁の家かどこかの会場で結婚のお披露めパーティがあるのだという。
われわれが初めてその光景をみたのは、カトマンズについた翌日のことであった。家の外で揃いの赤いミリタリールックに身をつつんだ楽隊がブンチャカブンチャカ♪やっているので、「おおぉ!これは!」と、早速見物人の中に身を投じたのであった。
親類縁者とおぼしき人々は胸に小さな花の飾りをつけている。古ぼけた車に、手分けしてセロハンテープでペタペタとレイをはりつけている。飾りは別に左右対象でなくてもいいらしい。ご多分にもれず適当である。それにしても、待てど暮らせどご両人の姿は見えない。楽隊はしばらくブンチャカブンチャカ♪やると、建物の内側から請われて中に入って行く。
…し~ん…
辺りにいる人達も、ぼーっと立っている。うーむ。暢気なのか何なのか…。
ブンチャカブンチャカ♪…し~ん…を何回か繰り返して、諦めてもう帰ろうかという頃、やっと花婿がでてきた。花婿花嫁が出てくるものと思い込んでいたので、なんとも拍子抜けである。両親らしき人(仲人かもしれない…)と共に飾り付けられた車に乗り込む。窓の外から姉のようなちょっと年上の女性が「がんばんなさいよ」というように花婿に向かって声をかける。
楽隊の一人が、ネパールの国の形と文字がアップリケされた大きな赤い旗を立てて、先頭を歩く。きっと「祝・結婚」などと書いてあるのだろう。楽隊に続いて車、さらに関係者がゾロゾロと後をついてパレードは往来を曲がっていった。
それがわれわれのネパールの結婚式行事を垣間見た最初である。結婚パレード自体はもう一度見るチャンスがあった。スワヤンブナートにいった帰り道、突然渋滞して、沿道に見物人が多く出ていた。ほどなく楽隊がブンチャカブンチャカ♪やってきたのである。楽隊のメンバーはこの間と同じである。
おいおい、君達は専門だったのか。とてもそうは…。
ともあれ、そんなこんなできっとネパールの結婚式とはこういうもの、と思っていたのだが、今回の結婚式は少し様子が違うらしい。何しろ場所はネパールで1、2を争う高級ホテルである。そんなところで執り行われる結婚式とは一体いかなるものであろうか。…ドアマンに迎えられるものの、挨拶もそこそこに中庭をつっ切って音のする方へ向かう。そこで我々が見たのは、煌々と強いライトに照らし出された花婿およびそのご一行の姿であった。例のウェディングカーも半端じゃない派手さである。
何しろ黒塗のぴかぴかの車体のボンネットとトップに花が活けてある。さらに周囲には、蘭を惜しげもなくあしらった色とりどりのレイがびっしりとめぐらされているのである。
花婿にはひらひらの飾りのついた傘が差しかけられ、周囲の祝福を受けながら一行は建物の中に入っていった。