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犬神家族-第一章 絶世の美人(8)

时间: 2022-05-31    进入日语论坛
核心提示:「さあ、それがね」古館弁護士はいくらか座り心地が悪そうに、|尻《しり》をもがもがさせながら、「大々的に太鼓判をおしてきま
(单词翻译:双击或拖选)
「さあ、それがね」
古館弁護士はいくらか座り心地が悪そうに、|尻《しり》をもがもがさせながら、
「大々的に太鼓判をおしてきましてね、手腕においても、人物においても、絶対に信用し
てまちがいなし……とこんなふうにいってきたものですから……」
とはいうものの、古館弁護士の顔色からは、半信半疑の色がぬぐい切れなかった。
「いやあ、そういわれると恐縮ですが……」
と、うれしいときのこれがくせで、金田一耕助は五本の指で、雀の巣のようなもじゃも
じゃの頭をかきまわしながら、
「なるほど、なるほど、それで思案にあまる親族会議をまえにして、ぼくのところへやっ
てこられたというわけですね」
「つまり……ええ、まあそうです。いつかもいったとおり、わたしはこの遺言状を虫が好
かんのです。依頼人の意志について、とやかくいうことははばからねばならんところです
が、この遺言状はあまり突飛すぎる。これではまるで犬神家の遺族のひとたちを、血で血
を洗ういさかいの|渦《うず》のなかへ投げこむようなものなんです。これが公表された
あかつきにはどんな騒動が起こるか。……この遺言状の作成を依頼された当時から、わた
しは漠然として、そんな不安を抱いていたんですが、そこへもってきて、せんだって若林
君の事件でしょう。それがまだ片づかんうちに、いよいよ佐清君がかえってきたことはよ
ろしい。犬神家にとって、これがめでたいことかどうかは二の次ぎとして、長らく外地で
苦労してきたひとがかえってきたのだから、なんといっても、これはめでたいことですよ。
しかし、佐清君はなぜあのように、人眼を避けてかえってこなければならんのか。なぜ、
あのように、人に顔を見られるのを極端にきらうのか。どうもそこのところが虫が好かな
い」
しだいに熱してくる古館弁護士の言葉に、注意ぶかく耳をかたむけていた耕助は、ここ
にいたって、はっと不審そうに眉をあげた。
「佐清君が人眼を避けているんですって?」
「そうです」
「ひとに顔を見られるのをきらうんですって?」
「そうですよ、金田一さん、そのことについちゃ、あなたはまだ聞いてはいなさらんかな」
耕助がぼんやり頭を左右にふると、古館弁護士は急に茶卓の上に身を乗り出し、
「実はね、金田一さん、これは犬神家の奉公人から聞いたことなんですが、松子夫人と佐
清君は、昨夜、なんのまえぶれもなしに、本邸へかえってきたんですよ。たぶん終列車で
かえってきたんでしょう、ずいぶん遅くなって表の|呼《よ》び|鈴《りん》が鳴るもの
だから玄関番の書生がだれだろうと思いながら表門をあけると、そこに立っていたのが松
子夫人なんだそうです。書生がびっくりしていると、松子夫人のうしろからひとりの男が|
外《がい》|套《とう》の|襟《えり》を立てて入ってきたが、なんとその男は、まっく
ろな|頭《ず》|巾《きん》のようなものを、スッポリ頭からかぶっているんだそうです」
金田一耕助は急に大きく眼をみはった。弁護士の話をきいただけでもなにかしら、ただ
ならぬ無気味さが感じられるのである。
「頭巾を……」
「そうなんだそうです。それで書生がびっくりして立ちすくんでいると、松子夫人はただ
一言、佐清ですよ、とそういって、そのままさっさと玄関から奥の自分の居間へ、その人
物をつれこんだそうです。さて、そのあとで書生から注進をきいた犬神家は大騒ぎになっ
た。なんしろ、次女の竹子、三女の梅子の一家は二週間もまえから、詰めかけていて、ふ
たりのかえりを待ちわびていたところですから、書生の注進をきくと、さっそく奥の一間
に伺候したが、それに対して松子夫人はただ一言、佐清もわたしも疲れていますから、い
ずれ明日と、なんといっても佐清君に会わせようとしなかったそうです。それが昨夜のこ
とですが、今朝になってもまだだれも、佐清君の顔を見たものはないそうです。ただ一人、
佐清君らしい人物が、手洗所から出てくるところを見た女中がいるそうですが、そのとき
もそのひとは黒い頭巾をスッポリ頭からかぶっていたというのです。なんでも、その頭巾
には眼のところにふたつ孔があいているそうですが、その孔の奥からジロリとこちらを見
られたときにはあまりの無気味さに腰がぬけそうだったと、その女中もいっているそうで
す」
金田一耕助は腹の底からこみあげてくるよろこびを、おさえることができなかった。な
にかある。松子母子の不可解な東京滞在といい、顔を見せぬ佐清といい、なにかしら、そ
こに異常なにおいがある。そして事件が異常なにおいをおびていればいるほど、金田一耕
助の食欲はそそられるのだ。
耕助はうれしそうに、がりがり、頭をかきまわしながら、
「しかしねえ、古館さん、佐清君もいつまでも顔をかくしているわけにはいきますまいよ。
自分がたしかに犬神佐清であるということを示すためには、いつか頭巾をとらずにはいら
れないでしょう」
「むろん、そうです。現に今日の遺言状発表ですが、これだって、かえってきたのが佐清
君であるということが、確かめられなければ公表するわけにはいきませんからね。だから
私は断然、頭巾をとってもらうことを主張するつもりですが、頭巾の下からなにが現われ
るかと思うと、あんまりいい気持ちじゃないんですよ」
耕助はしばらく考え深そうに渋面をつくっていたが、
「いや、案外、なんでもないかもしれません。戦争に行っておられたのだから、顔のどっ
かに傷があるとか……そんなところかもしれませんよ。それよりねえ、若林君のことです
がねえ」
耕助はそこで急に茶卓の上から身を乗り出すと、
「その後、若林君が遺言状の内容を漏らした相手はわかりませんか」
「わかりません。若林君の日記なんかも、警察で厳重に調べたらしいんですが、まだなん
のいとぐちも見つからないようです」
「しかし、若林君にいちばん親しく接触していた人物は……つまり、若林君を買収するの
に、いちばん好都合な立場にいたひとは……?」
「さあ……」
古館弁護士は眉根にしわを寄せて、
「そういわれても見当がつきませんねえ。佐兵衛翁が亡くなられた当時、犬神家の一族は、
しばらく全部こちらにいたのですし、その後も法要ごとに集まったのだから、若林君を買
収しようと思えばだれでも買収するチャンスはあったでしょうよ」
「しかし、相手によりけりでしょう。若林君だって、そうむやみにだれにでも買収される
わけはないでしょうからねえ。このひとのためなら……と、若林君がそう思いこむような
ひとはありませんか」
何気なく放った耕助のこの質問は、しかし、いたく相手の心をえぐったらしい。古館弁
護士は突然ギョッとしたように息をのみ、しばらく虚空を見つめていたが、やがてハンケ
チを出して、ソワソワと首のあたりをふきながら、
「そ、そ、そんなはずはありませんよ。だ、だ、だって、そのひとこそ、ちかごろしばし
ば危ない眼にあっている当人なんですから」
こんどは耕助が、ギョッと息をのむ番だった。かれは大きく眼を見はり、しばらく、孔
のあくほど古館弁護士を見つめていたが、やがてしゃがれた声で、ささやくように、
「古館さん、あ、あなたのおっしゃるのは、珠世というひとのことですか」
「ええ? あ、そ、そうです。若林君がひそかにあのひとを|想《おも》っていたらしい
ことは、日記やなんかでも明らかなんです。あのひとの頼みとあらば、若林君はどんなこ
とでもしたでしょうねえ」
「古館さん、若林君はこのあいだ、ぼくを訪ねてくる直前、犬神家へ立ち寄ったそうです
が、そのとき、珠世さんに|逢《あ》ったでしょうか」
「さあ、そ、そこまでは聞いていませんが……し、しかし、たとえ逢ったとしても、まさ
か珠世さんが毒煙草を……あんな、美しいひとが……」
古館弁護士はしどろもどろになって、額の汗をふきながら、
「そ、それよりも、あの当時、犬神家には一族全部集まってましたからね。もっとも、松
子夫人だけは東京へ行ってたが……」
「古館さん、あの猿蔵というのは何者なんです。珠世さんにひどく心服しているようだ
が……」
「ああ、いや」
古館弁護士はそそくさと腕時計を見て、
「ああ、もうこんな時刻か。金田一さん、わたしはもうこれで失礼します。犬神家でも待
っているでしょうから」
「古館さん」
折りカバンをかかえて、そそくさと座敷を出ていく古館弁護士のあとを追っかけるよう
にして、
「犬神家で発表したあとなら構わんのでしょう。ぼくにその内容を打ちあけてくだすって
も……」
古館弁護士はギョッとしたように立ち止まって、耕助の顔を見つめていたが、
「ああ、いや、そ、それは構いません。そうですね。それじゃかえりにもう一度立ち寄っ
て、改めてそのことについてお話ししましょう」
古館弁護士はそういいすてると、折りカバンをかかえて、逃げるようにスタスタと那須
ホテルの階段をくだっていった。
しかし、事実は耕助は、それよりももっと早く、遺言状の内容を、知る機会に恵まれた
のだが、それはこういうしだいであった。
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