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湖泥 三 (3)

时间: 2023-12-14    进入日语论坛
核心提示: 金田一耕助と磯川警部は顔見合わせてうなずいた。 清水巡査はまだ若い。独身でもある。かれもまた由紀子の崇拝者だったとして
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 金田一耕助と磯川警部は顔見合わせてうなずいた。

 清水巡査はまだ若い。独身でもある。かれもまた由紀子の崇拝者だったとしても、べつ

に不思議はないであろう。

 磯川警部がなにかいおうとしたとき、ふいに表の障子に影がさして、足音もなくひとり

の男が入ってきた。背後から光をあびているので、顔はよくわからなかったが、入り口に

棒立ちになったまま、三人の姿と押し入れのなかを見くらべていたが、

「九十郎、これは、ど、どうしたんだ!」

 と、清水巡査にどなりつけられて、まるで骨でもぬかれたように、そのまま、くたくた

と土間にへたりこんでしまった。

 死体のこのあさましい状態からして、九十郎という男を、どのように凶暴な人物であろ

うかと想像していた金田一耕助は、相手が思いのほか意気地のなさそうな男なので案外な

思いだった。

 年齢は五十前後だろうか、小作りな体で、無精ひげをもじゃもじゃはやし、清水巡査も

いったとおり、いかにも敗戦ボケらしく、瞳ひとみがにごって生気がなく、口をポカンと

ひらいているが、それでいて見ようによっては、陰険らしく見えるところもある。

「九十郎、これはいったい、ど、どうしたんだ。この死体は……?」

 嚙かみつくように清水巡査にどなりつけられて、九十郎は無精ひげをいっぱいはやした

くちびるを、もぐもぐさせながら、

「へ、へえ、拾いましたんで……」

 と、無感動な声でつぶやいた。

「拾ったあ? 馬鹿なことをいうな! 貴様が絞め殺したんだろう」

 事実、由紀子は絞め殺されたらしく、のどのあたりになまなましい、くろずんだ指の跡

がついている。

 九十郎はしかし、あいかわらず無感動な声で、

「いいえ、ほんとうに拾いましたんです」

「拾ったって、どこで拾ったんだ」

 磯川警部がおだやかな声でたずねた。

「へえ、湖水のなかに浮いていたんで。すぐそこの崖の下に……」

「それはいつのことだね」

「へえ、あの……大夕立のあった晩で……」

「大夕立のあった晩というと、四日の晩のことだね」

「へえ、そうなりますか。……そうそう、隣村の祭りのつぎの晩でしたから、四日の晩と

いうことになりますか」

「四日の晩の何時ごろのことだね」

「さあ、何時ごろとおっしゃられても……わたし、時計を持っておりませんので。……で

も、大夕立のあがったあとのことで……」

「清水さん、夕立は何時ごろあがったんですか」

 金田一耕助が清水巡査をふりかえった。

「はあ、あの、八時ごろにはすっかりあがっておりました。お月様がとてもきれいだった

んです」

「そうです、そうです。そのお月さんを見ながら、崖の上から小便をしておりましたんで

す。そして、小便をおわってから、ひょいと崖の下を見ますと、由紀子ちゃんの死体が浮

いておりましたんで。……」

「崖の上から見ただけで、由紀子だとわかったのかね」

 磯川警部がたずねた。

「いえ、あの、それは……だれだかわかりませんでしたんで。でも、女だということだけ

はわかりましたんです。それで、いそいで崖をおりると、由紀子ちゃんの体を抱きあげて

まいりましたんです。そのとき、由紀ちゃんの手足には、荒あら縄なわがまきついており

まして……」

 金田一耕助はそれをきくと、いそいで死体の手と足をしらべてみたが、そこにはまぎれ

もなく、なにかできつく縛ってあったらしい痕こん跡せきがのこっていた。

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